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吉本興業は闇営業問題のとき、どうすべきだったのか

吉本興業の闇営業問題における対応は批判の声が多かったが、果たして吉本興業は会社としてどのようにリスクマネジメントすべきだったのかを考えたい。

以下、時系列 

2019年5月30日 宮迫氏にフライデー直撃、会社に第一報
6月3日 フライデーから質問状を受領。タレント一斉ヒアリング。
・ギャラはお車代として入江氏が受領。40~50万くらいとの記憶
・宮迫氏、亮氏は記憶なし、HG、福島はパーティーの記憶はあったがギャラは無かったと説明
6月4日 入江氏契約解消
6月7日 22時ごろ 宮迫氏ツイート
6月8日 16時ごろ 亮氏ツイート
・亮氏ツイート後、宮迫氏に電話。宮迫氏がギャラをもらっていた旨を連絡
・宮迫氏、亮氏、HG、福島の4人で会社を訪問、再度のヒアリング
・参加者全員が入江氏からギャラをもらっていた旨を述べるが、金額に明確な記憶はない
・突如重大な新事実が発覚したため、事実が不明瞭な状況のもと、各自の判断でSNS、マスメディアなどで勝手な配信をしないよう要請
以降、金銭の流れ、金額確定に向けて弁護士を同席させてヒアリングを実施。事実が明らかになり、虚偽報告の詳細が固まれば重い処分とならざるを得ないことを説明
6月10日 HG、福島と面談
6月14日 フライデー第2弾記事発売
6月15日 宮迫氏、亮氏、HG、福島に再度ヒアリング
・やはり宮迫氏らに受領金額の記憶はなく、事実は確定せず
6月18日~6月19日 各タレント一斉ヒアリング
・事実整理をもう一度行うが、宮迫氏らに事実経緯、受領金額の明確な記憶はない
・入江氏はこの日もギャラは40~50万だったと説明
・亮氏はギャラ受領の事実を早く言いたいと述べたが、会社としては、金額も明確ではないため調査を待ってほしい旨を伝える
6月21日 宮迫氏と面談。他のタレントに先行して謹慎処分の方針を説明
6月24日 各タレント集合
・謹慎処分の通告(藤原・顧問弁護士・小林にて面談)
・各自、リリース内容への異議、亮氏は会社を辞めて一人で会見したいと主張するなどの状況、これを受けて岡本社長がタレントと面談
・入江氏に再度ヒアリング、金額は220~230万くらいだったと述べるが、タレント受領額は整合せず
6月24日~6月30日 担当マネージャーと宮迫氏が2回程度電話
・宮迫氏「会見どう思う?」、担当マネージャー「会見はタイミングが大事。今は違うのではないか、今さら、という評価になってしまうのではないか」、宮迫氏「そやな~」と納得した様子
6月27日 決意表明リリース
スリムクラブ・2700の反社会勢力との接触が判明。同日中に無期限謹慎処分をリリース
7月6日
・宮迫氏、亮氏が来社。岡本、藤原にて面談
・記者会見をしたい、その際、宮迫氏が引退を発表すると述べる
引退を慰留。会見は行うが、時期や方法は会社に任せてほしい
7月7日 宮迫氏と藤原が面談
・早期会見を要望。寄付・納税などを行ったうえですべきと述べる
7月8日 宮迫氏・亮氏、藤原・小林・顧問弁護士にて面談
・宮迫氏が自身の引退について述べ、早期の会見実施を再要望
・その後、入江氏、HG、福島も含めてタレントのみで打ち合わせ
・その結果、宮迫氏は引退しない、来週中を目処に会社が謝罪会見を実施する方針となる
7月10日
・亮氏からQA整理の段階で宮迫氏・亮氏が委任した弁護士を参加させたいとの要望
・その後、先方弁護士から早期の会見打ち合わせ要望を受ける、以降、弁護士を窓口として連絡することになる
7月11日 先方弁護士、宮迫氏、亮氏、当社顧問弁護士、小林にて面談
・会見が遅い、やらせてくれない、寄付もまだとの不満が述べられる
・会社はタレント復帰に向けて最善策を考え、寄付、納税の在り方など多角的に検討してきたと説明
・顧問弁護士より、損害も生じているがファミリーだから請求しない、タレント復帰に向けて現場は奔走している旨を話す
・宮迫氏、亮氏側の弁護士から会見の生中継の要望あり。生中継する場合、当社の株主には放送局もおり、公平を期して時間帯などに配慮が必要となる、と説明
・会見のテーマを明確にするため、宮迫氏、亮氏側弁護士が持ち帰って検討し、会見テーマの書面提案を受けることに
7月12日
・先方弁護士から会見テーマ書面受領
・当該書面には、19日の会見実施可否を16日までに回答せよ、19日までの会見ができなければ自身らで会見する可能性がある、との内容
・会社からの寄付完了(スマイル基金、消費者機構日本)、修正申告も完了
7月16日
・会社が宮迫氏、亮氏への回答を準備していたところにFRIDAYの質問状が届く
・これを先方弁護士に送付、再度の電話打ち合わせ
・会社の考えは、会見を認めないということはないが、その時期・方法は会社に任せてもらいたい、少なくとも19日までの会見ができないとのもの。その際、2人の引退意向を確認、吉本仕切りでの引退会見を合意
7月17日
・先方弁護士より、宮迫氏は引退するが亮氏は引退のつもりがないとの説明
・話が違うので再度本人の意思確認を求めたところ、数時間後、先方弁護士より「2人とも引退意向はない」、吉本仕切りでの「謝罪」会見を要望、その書面受領
7月18日
・二転三転しこのまま会見できる状態にない、新たな記事も予定されている状況のため、どうしても会見したいならばもともと希望していたはずの引退か契約解消かを選んでからにしてください、と連絡
・宮迫氏、亮氏が来社、顧問弁護士・小林で面談
・弁護士解任と混乱に関する謝罪あり。2人は引退を選択する意向
・宮迫氏は引退を了解したが、亮氏の引退は避けてほしいとの要望を述べる
・20時目処に再集合し、リハーサルすることとして解散
・19時30分ごろ、会見リハーサルのため宮迫氏に連絡したところ「会社には行きません。引退は撤回し、契約解消を希望する」旨を言われる
・宮迫氏らの要望を受け入れ、宮迫氏は引退、亮氏は無期限活動停止とする旨を相方を通じて連絡するも、連絡なし
・その後、一切連絡取れず
7月19日
・引き続き連絡なし、予約していた会見会場をキャンセル
・宮迫氏へ契約解消通知
ザ・テレビジョン(2019/07/22)「吉本興業が”闇営業問題”一連の騒動の時系列を発表<発表リリース全文>」https://thetv.jp/news/detail/198453/より引用

7月20日:宮迫博之と田村亮が会見を開く。会見直前に、吉本興業が田村との契約解消する。
7月21日:吉本興業と岡本昭彦社長が、22日に記者会見を開くと発表。
7月22日:吉本興業と岡本昭彦社長が、騒動後初めて、記者会見を開く。

吉本興業がリスク対応として改善できる部分

吉本興業闇営業問題は岡本社長の記者会見で、本来であれば終息に向かわなければならなかったが、さらなる炎上を引き起こす結果となった。
まず、岡本社長の記者会見に至るまでの吉本興業の対応について、改善できた点として以下を挙げる
・記者会見の日程を決め、現状起きていることの説明をすべきだった
→情報の適時開示をするために、定例記者会見という形を取ってもよかったのではないか
・反社会的勢力の会合出席が報道されたのち、即座に事務所としてのスタンスを発表
→決意表明リリースに準ずるものを6/7の時点で出せたのではないか
・虚偽報告の発覚時点で記者会見のセッティングを行う
→6/9に記者会見リリース
 →記者会見では虚偽報告が発覚したこと、金額については整合性を含め調査中、本人たちに反社の認識があったかの調査、謹慎ののち事実関係が明らかになり次第処遇を決定を報告
・金額が確定した時点でタレントらの処遇を決定、記者会見リリースを発表、会議後のぶら下がりでタレントらの謝罪、記者会見にて発覚した事実の公表・処分の内容の報告を行う
などが考えられる。
いずれにせよ、後手後手に回ってしまったのが会社の隠蔽ではないかという不信感につながったのではないかと思われる。会社として情報を把握しきれていないなどの事情は考慮できるが、迅速な危機管理対応ができていたかと言われれば、改善できる余地はあるだろう。

記者会見が失敗となってしまった本当の理由

岡本社長の記者会見自体は内容に関しては最悪だったというほどでもないと個人的には感じている。だが、受け答えの明快さや場のコントロールなどはもう少し改善すべき部分はある。例えば、時間を区切らずに全員から質問を受けるという形式は、同じ内容の質問が飛び交うこととなってしまった。イチロー氏の引退会見では自身で場をコントロールすることによってそういったことを防いでいたが、今回の記者会見は記者たちがやりたい放題やっていたといった印象である。もちろん岡本社長の歯切れの悪さがそうさせてしまう原因でもあるのだが。

今回の記者会見は事後の身内の反応が否定的であったのが最も深刻であると考える。どちらかと言えば記者会見の失敗というよりは普段のコミュニケーションに問題があったのではないか。それは宮迫氏らの記者会見の内容を見ても明らかである。
内部の人間からあれは嘘だ、と言われてしまったら記者会見をした意味がなくなってしまう。もちろん本当に嘘を言っていた可能性もあるが。いずれにせよ、結果としてあの5時間は全く持って意味のない時間となってしまった。

会社の信頼性回復のためにどうすべきか?

これからの会社側の発信に信憑性を持たせるためには、会社とタレントの意思を統一しなければならない。そのためにまずは、会社側の意向をタレントに明確に伝えた上で、タレント自身が自らの意思で事務所を選択しているという自覚を持ってもらうことが必要である。
そういった自覚を持ってもらうためには、芸能界の構造として事務所を移った場合の圧力などは率先して排除していくべきだ。もちろん、売れるまで面倒を見ているのだからという言い分も一理ある。そのため、FA制度のような、ある程度売れるまでの投資を回収できるまでは事務所にいてもらうがその後は契約を見直していくといった形もできるだろう。エージェント制の導入というのがそれも内包した形になるかもしれないが、これが今の事務所とタレントの力関係を変えるきっかけになることを願う。
タレントと事務所の関係を変えるのと同時に、タレントに対するコミュニケーションを行なっていかなければならない。実際にタレントとコミュニケーションを行うのはマネージャーなどの社員になる。そのため、まずは社員に会社の意思を浸透させる必要がある。社員の中にも事務所が絶対という意識を持っている者もいるだろう。まずはそこの意識改革を全社的に行わなければならない。その上で、タレントに会社のメッセージを伝えるにはどうすべきかを社員に教育していくことが必要だ。
これらが整備されて初めて、会社としての発信が意味を成すものになってくる。記者会見やリリースの情報開示だけを行なっていても、それらが全て信用できるものでなければ意味がない。まずは内部の足並みを揃えることがリスク対応や広報の第一歩となる。


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