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炎上のメカニズムと企業における炎上対策

企業経営に悪影響を与えるリスクは様々あるが、昨今のソーシャルメディアをはじめとした炎上によるダメージは情報社会において特に注意しなければならないリスクの一つとして挙げられる。ソーシャルメディアやネット検索によって情報収拾をし、その情報をもとに人々が行動の選択を行なっている現代では、炎上による企業イメージの損失は大きい。また、炎上が原因で問い合わせ過多・脅迫や業務妨害が起きる場合もあり、業務が通常に執行できなくなる危険性もある。
炎上対策は企業経営を行う上で重要な経営戦略の一つである。事例をもとにどのような対策が求められるかを提言したい。

炎上の原因

そもそも炎上はどういったことが原因となって起こるのか。

① 反社会的行為や規則・規範に反した行為(の告白・予防)
② 何かを批判する、あるいは暴言を吐く(政治・宗教・ネット等に対して)。デリカシーのない発言をする。特定の層を不快にさせるような発言・行為をする。
③ 自作自演、ステルスマーケティング、捏造の露呈。
④ ファンを刺激。
⑤ 他者と誤解される。 

田中辰雄・山口真一(2016)「ネット炎上の研究 誰があおり、どう対処するのか」勁草書房 p24表2,1ネット炎上事例

となっている。これらの原因をもう少し大まかに分類すると、他者への攻撃や騙す行為①〜④と誤情報の伝播⑤となる。つまり、他者に負の影響を及ぼす行為適切な情報コミュニケーションができていない状態のどちらかもしくは両方が起こった場合、炎上の原因となる。①〜④の原因が見聞きされ、それらに否定的な意見が発信され、その発信された情報を見聞きした者が情報を伝播させるもしくは自らも否定的な意見の発信者となることによってネガティブな意見の連鎖反応が起きることが炎上の構造である。次からはなぜその連鎖反応が起きるのかを言及していく。

事例1

スマイリーキクチ事件

お笑いタレントのスマイリーキクチ(本名・菊池聡)が、日本を震撼させた凶悪殺人事件「女子高生コンクリート詰め殺人事件」(以下、殺人事件)の実行犯であるとするなど、いわれなき誹謗・中傷被害を長期間に渡って受けていた事件である。

スマイリーキクチ中傷被害事件 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』2019年8月11日閲覧https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%82%AF%E3%83%81%E4%B8%AD%E5%82%B7%E8%A2%AB%E5%AE%B3%E4%BA%8B%E4%BB%B6#cite_note-4

 
この事件では掲示板に名誉毀損、脅迫とみられる書き込みをした炎上加担者が検挙されるに至った日本で初めての事例である。この時に発覚したのは、炎上の加担者が全国に幅広く存在し、年齢や職業も多種多様な人たちであったということだ。つまり炎上の加担者にはどのような人がなりやすいかというものが存在せず、誰でもなりうるということだ。
この事件が起こったのは、ネットの匿名掲示板が隆盛を極めていた1999〜2008年頃で、匿名性がもたらす責任感や攻撃的な行為の自覚の欠如が露見した事例であった。被害者側からすればこの事件は1対多数による袋叩きの状態だったが、ネットという対面しない環境、自らの素性が明かされない環境下だとそれを自覚しづらいのではないかと考えられた。事実、検挙された者は自らが加害者という自覚はなく、警察の取り調べによって犯した行為を初めて自覚する者も多かった。

掲示板では他者の発言を誰でも・いつでも見ることができるため、過去に書き込まれた内容が蓄積され、更新さえ続けられていればたとえ1週間に一度しか書き込まれていなくても今起きていることとして認識してしまうことが現在の炎上事件と比べてこの事件が長期化した原因の一つだと考えられる。現在の炎上事件が過去の炎上と比較して燃え上がるのが早く、沈静化するのも早いのはSNSのタイムライン形態のインターフェイスが関係しているのではないだろうか。掲示板は一つのトークテーマに対して皆の意見を蓄積していく場所だが、SNSは様々な事柄に対して思ったことや起きたことをそれぞれが勝手に投稿する。そのため、SNSのタイムラインにはルール(一つのテーマについて話さなければならない)が無く、話題の移り変わりが激しい。一方で、本来ルールのない場所に突如として統一性が生まれたら(一つのテーマの投稿が増えたら)普通ではないとユーザーは認識する。異常を感知した者は何が起こっているのかを知ろうと普通ならば調べもしないことについて情報を取りに行く。それがSNSの炎上の燃え移りが加速度的に起こる原因だと考えられる。

事例2

ローソンアイスケース事件

2013年6月、ローソン従業員の男性が店舗内のアイスクリームケースの中に入った写真を、その友人がFacebookに投稿しました。投稿後、しばらくしてその写真が拡散され、「不衛生だ」という批判が集まりました。その写真に写り込んだロゴから、店舗がローソンだと特定され、さらには店舗が高知鴨部店であること、その従業員がその店の経営者の息子であることなども、ネットユーザーの調査で発覚しました。7月14日には、2ちゃんねるのまとめサイトなどにも取り上げられ、炎上状態となりました。この写真を見た人の中には、ローソン本部にも直接苦情を入れる人も多数いました。
これを受け、ローソンは迅速に事実確認を行った上で非を認め、炎上が発覚した翌日の7月15日にお詫び文をリリースしました。また当該店舗とのフランチャイズ契約の解除、当該従業員の解雇、店舗の休業をあわせて発表しました。この対応方法には、多くの人が納得しました。
ローソンの公式な謝罪で収束するかに思えましたが、その翌日には多くのテレビやメディアがこの炎上事件のいきさつについて取り上げました。これにより、ネットの炎上を知らなかった人にも、事件が知れることになりました。さらにテレビ局のニュースサイトでは、放映したニュース映像とあわせて掲載している例もあります。

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「ローソン アイス」が含まれるツイート数 

ガイアックスソーシャルメディアラボ(2013.07.29)「炎上を防ぐのは不可能!しかし炎上に対応することはできる!|「ローソン」の事例に見る炎上とソーシャルメディアの影響力とは。」
https://gaiax-socialmedialab.jp/post-16592/

上記の表はSNSにおける炎上化の速度を表しているだろう。掲示板が主な炎上のフィールドだった事例1は約10年に渡って投稿が続けられたのと比較するとSNSの炎上は短い期間で起きているのがわかる。
見落としてはならないのは原因となる投稿から1ヶ月経ってから炎上化していることだ。これはSNSにおいて話題が移りやすいとはいえ、原因となる事象も一緒に流されてしまうということは無いというのを証明している。ネット上に一度アップロードされたものはその事象に対しての解決がなされなければ、いつでも炎上する可能性がある。つまり、一度炎上したが別の話題に切り替わったため沈静化したものでも、原因に対する解決がなければ再び炎上するということである。そのため、炎上に至ったら必ずその原因の解決を行わなければならない。解決を怠れば炎上リスクが一生付きまとうことになる。事例1でも、警察の公式な声明が出されるまで、炎上と沈静化のサイクルを繰り返していた。
また、この事例は大手報道機関が炎上の認知拡大に貢献している。現代におけるマスメディアは、炎上サイクルにおいてフォロワーの多いSNSユーザーと同じ役割を果たしていると捉えることもできる。これは、マスメディアの影響力が落ちてきたのではなく、個人がマスメディアと同じ影響を及ぼすことができるということだ。しかしながらそれを自覚しているユーザーは多くない。リテラシーのない者が情報発信をし、それがマスメディアに匹敵する影響力を持っているということに留意しなければならない。誰もが炎上の加担者となりうるということは、誰もがマスメディアと同等の影響力を持ちうるということだ。

事例3

セブンペイ事件

セブン&アイ・ホールディングス(HD)は4日、傘下のコンビニチェーン店などで使えるキャッシュレスサービス「7Pay(セブンペイ)」の不正利用が続いたことから全てのチャージを一時停止した。同日の記者発表では、およそ900人による総額で5,500万円の不正利用があったことも明らかにした。
ネット上では、Yahoo!ニュースへのコメント(ヤフコメ)への書き込みが同日深夜の時点で数千件にのぼり、ツイッターで配信された報道機関の投稿にもレスが殺到。中でも記者会見の概要を伝えた産経新聞のツイッターには、リツイート数が、一夜明けた5日朝の時点で7000を超える反響となった。

アゴラ(2019年07月05日)「セブンペイで再び大炎上!24時間営業問題から続く負の連鎖」  
http://agora-web.jp/archives/2040116.html

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この事件のツイッター上での炎上経緯を時系列で見ていくと
7/1 セキュリティを不安視するツイートが投稿される
7/2 不正利用が起きたと一般ユーザーの投稿
7/3 大学教授の藤川大祐氏が不正利用被害のツイート
  まとめサイト、webニュース、マスコミが報道
となる。7/1の時点で事件を示唆する情報が発信され、7/2でそれが本当に起きたことによって確信的となった。そして7/3の大学教授という信頼性を担保しているとされる者の情報発信によって情報の拡散が爆発的に起きた。爆発的な拡散が起こったのは、ある程度情報が出揃い、そしてその情報の信憑生が高いと人々が判断したためである。事例3の事件の炎上発生が原因発生から3日間で起きているのはそのためで、事例2では当該店舗と実行者の素性が明らかになるまで時間がかかったため、原因発生から1ヶ月後に炎上が起こったと見られる。
何が原因で誰が悪いのかが判明したとき、炎上に対する歯止めは効かなくなる。これをコントロールすることが、想定外の炎上を防ぐ鍵になる。炎上の原因となる事象を感知した時点で、いつどこで誰が何をしてどうなったかを究明し、それを自らが公表することが必要である。自分の側に情報をコントロールするイニシアチブを持っておけば炎上が深刻化するのを防げる。失敗に気づかず上司に指摘されるのと、失敗を自分で把握し上司に報告するのと、失敗を把握した上で対策案を上司に提示するのではどれが最も印象がいいかは、言うまでもないだろう。

ネットが普及した社会において、反応の数が数値的に見えるようになり、平常時と比較してネガティブ意見の異常値が検出できるようになった。そのため、炎上という現象が起きていることが認知しやすくなったと言えるだろう。認知しやすくなったというのは、炎上という現象がネット社会の勃興によって突如起きたことではないということである。
炎上が起きるフィールドの共通点は、誰でも発言でき・その発言を誰でも見聞きすることができるという点にある。これはつまり、先生のいないクラス会議と同じである。発言を制して、議論をコントロールする者がいない状況は炎上を引き起こす。議論のコントロールが機能していない場合も同じである。国会で法案の反対派が思い思いにヤジを飛ばしたりしている状況も炎上に変わりない。誰もが意見を自由に発言できてしまう場所は常に炎上の危険性を孕んでいる。
議論をコントロールしてくれる議長はSNSやネットには現状存在しない。我々ができることは議論の主導権を握るか、自らが批判の対象とならないよう正当性を認識させることである。

対策

以上を踏まえた上で、各々の組織に沿った対策を検討してほしい。以下に記述する対策案は炎上対策に対する考え方を実行に落とし込んだものである。会社の規模やマーケティング戦略によってどのような実行が適切かは変わってくると思われるので参考程度にしてほしい。

① SNSの運用
先ほど述べたように、現代は個人がマスメディアと同じ影響力を持つ時代である。つまり、マスメディアに対するのと同等のリソースを割き、個人に対するコミュニケーションを行なっていかなければならない。メディアリレーションズに相当する個人とのコミュニケーションは現時点ではSNSが妥当ではないかと考える。双方向のコミュニケーションによって個人との関係性を構築していくことが求められるためである。
今までメディア対応として配置していた人員や予算を分割してSNSの運用に回すか、今までのメディア対応と同等の人員と予算をSNS運用のために増やすことが必要である。SNS運用はおまけではなく、マスメディアと相対しているのと同じだと心得なければならない。
また、ここで構築された個人との関係性は、議論の主導権を握るのに役立つ。なるべく多くの自社の賛同者を獲得しておくことが炎上における布石になりうる。

② 炎上の原因となる事象を感知、報告させる窓口の明確化・危機管理部門の設置もしくは緊急対策案件の特命チームメンバーの招集を行える状況を常時整えること
リスク発生とともに原因の究明と情報のコントロールを即座に行わなければならない。そのため、常に対応できる体制を整える必要がある。常設部門の設置が望ましいが、常設できない場合はメンバー招集の規定を明確にしておく必要がある。尚、危機管理の責務を全うする担当役員を一人任命し、経営層直轄の組織とする。これは、リスクの発生が経営に重大な悪影響を及ぼす可能性が十分に考えられるため、経営戦略の中に危機管理を組み込まなければならないと考えるためである。
危機管理担当者は想定しうるリスクに対するシナリオとその対応策を定期的に提出すること。炎上の期間が短期化している昨今では炎上が起きてから対応していたのでは深刻化するまでに間に合わない。そのため、事前に準備しておく必要がある。

以上が炎上対策における最低限の実施策である。この施策の担当となった者は炎上リスクを踏まえた上で企業イメージの向上と経営戦略の一翼を担っていることを自覚して取り組まなければならない。


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