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おひとりさま複数回サンドイッチ可能

クリスマスは読売交響楽団の第九を聴きに東京芸術劇場へ行った。軽食チケットをじっと見たら「おひとりさま複数回利用可能」と書いてある。

会場に着くなりサンドイッチと烏龍茶をもらって、もぐもぐしつつ夫くんに「これ、サンドイッチも複数回もらっていいのかなあ」と聞くと、目を丸くして「そんな人はクリスマスに第九を聴きに来ないよ」と言う。なるほど。

一旦はそうだよねとわかったふりをしつつ、食後のコーヒーを飲みながら「サンドイッチもう少し食べれそう」「休憩のときもサンドイッチが余ってたらもらってもいいかな」「サンドイッチは人数分ないのかな」とうわ言のように延々サンドイッチサンドイッチと繰り返していたら、夫くんの引きつり顔がゆるんで「サンドイッチの欲しがり方が尋常じゃない」と笑った。

「たぶん、前世は飢餓で死んだんだと思う。食への執着が変に強いから」と半分冗談で言ったら、急に真顔になって「本当にそうだと思う。ちょっと異常だよ」と返された。え、本当にそうなの?

去年初めて読響の第九を聴いたときは「第九なら大丈夫だろう」と予習ゼロで臨んだところ、見事に教養が足りず第一楽章から第三楽章までいまいちピンとこなかった。※誰でも知ってるのは第四楽章

今回はその反省を活かして、当日の昼から第九を流して(遅いよ)耳を慣れさせ、行きの電車でひたすら第九のうんちくを読んでいた。当日直前の叩き込み予習だけど、これだけでも格段に鑑賞しやすくなるもので、第一楽章から第四楽章まですべて楽しく、1時間超えの演奏もあっという間。

人類共通の芸術と名高い第九だけあって、第四楽章のオーケストラと合唱が一気に重なりあう瞬間は視覚も聴覚も圧倒されて、ぽろぽろ泣いた。魂がふるえている。女性ソプラノのふたりはクリスマスらしい赤と白のドレスを着ていて、星屑をちらしたみたいにキラキラしていた。私まで上等な気分になる。

テノールのトム・ランドル氏が、最後にサプライズで合唱の女性陣に向けて花束を投げ渡した。女性陣は終始保っていたすまし顔を解いて「きゃあ」と少女みたいな黄色い声をあげる。そのあと女性コンマスにもプロポーズのように跪いて花束をプレゼント。外国の男性って本当に喜ばせ上手だ。

帰り道、おなかが減ったねといろいろなお店を調べ、検討に検討を重ねて和食屋に足を運んだつもりが隣のラーメン屋に吸い込まれてしまった。こっくりクリーム色のとんこつラーメンが、禁断のおいしさで胃袋を満たす。クリスマスに第九とラーメン。後者の方が自分らしい気がする。

あんまりにおいしくて胃がバカになり、「もっと食べれる」とうめいた私は、駅のホームでサンドイッチを取り出してひとつ食べた。そう、休憩時にもうひとつ失敬した2パックめのサンドイッチである。しかしひとつ食べたら夢が覚め、私のおなかは鳴りを潜めた。残りのサンドイッチは丁重に冷蔵庫にしまい、翌日ありがたくいただいた。

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