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別府湯巡り紀行 拾壱


この物語は

2022年11月5日、6日に

別府ビーコンプラザ

フィルハーモニアホールにて行われた

即興演劇集団「ロクディムにわか」公演

劇場観覧に乗じて

にわか湯巡りをしまくった

ある男の記録である。


目次


序章 なにも知らないのはいつものこと
第1章 別府の洗礼 
第2章 長い道のり
第3章 別府市民憲
第4章 猫の目
第5章 爽やかな海に
第6章 昼下がりのマーチ
第7章 夕暮れのビーコンプラザまで
第8章 夜、さまよう旅路
第9章 宿にて
第10章 午前中ってのは短いんですよ?
第11章 芝居尽くし




第11章

芝居尽くし
~あの日のあなたと再会~

2日目 11:30~17:00



此花温泉を出て
次の温泉を目指す。


虹色の地域子育て支援センターの看板
昔ながらの円柱の赤いポスト
酒屋の古めかしい看板。

いやぁ情緒あるなァ…
知らない街の旅情を心に残しながら
角を曲がる。




え?





とんでもないものが現れる。





温泉地に置いてても
治安維持できてるなんて、すごいな別府


なんだ これ

…酒の…自販機だと…?

目を疑ったが、確かに存在していた。

自販機の下には注意書が。

なになに…?



まあ、そうだよね…
さすがに夜間は売らないよね



は?




実質24時間だった


いやいや…えぇ…(困惑)


なんだかよくわからんが


商品の色褪せ具合から、もう自販機は
稼働していない可能性もある

試しにお金いれてみようか?


チャリン


…うん、電気はついた。


けど、まさかお酒なんて

出てこないよな




ぴっ

ガコン



でちゃった



「金麦! 金麦!」

昨晩の、舞台での光景が目に浮かぶ。


魚釣りをする2人
途中からの、雨の照明が大変美しかった


釣り人の話かと思ったら
釣られた魚の、生け簀からの脱出劇になったり
釣った魚に金麦をあげことになったりする
だいぶ飛び抜けたストーリー。

お題のセリフに「金麦」が出た。

魚に扮し、金麦を旨そうに飲み

生け簀からでなくていいやとなる。

舞台上には本物の金麦などないが

見える…見えるぞ…金麦が。。



恐らく、その影響でも、きっと
スーパーやコンビニの陳列棚ならば
手を伸ばすことはなかっただろう。
普段、ビール飲まないから。



けれども

今この手には

キンキンに冷えた金麦が。


冷たいうちに飲みたいが
何か食べる物を探さねば。
後先考えず買ってしまったがゆえ
どこか店で食べる選択肢は消えた。


少し歩いて近くにあったセブンイレブン。
で、買ったのがこちら

なんだろ…みごとに棒状の物ばかり
焼き鳥も買ってみた




では、温泉が開くまで
温泉の入口のベンチでお腹にいれよう。





15湯目 錦栄温泉

玄関のソテツが
そこはかとなく南国

女湯入口の外側右奥にあるベンチを借りる。
諸々、腹にいれる。
食べ終わる頃、初老の男性が戸を
ガラリと開けて入っていった。

…ん? あれ?
お昼休憩とかじゃないの?

ひょっとして開いてる?

振り返ると入口横には
「営業中」の札。どうやら土日は
終日開いてるらしい。
腹ごなしと食休みが終わってから入口へ。
昼を食べている間に、二人ほど男湯へ。

受付は不在だった。
料金をいれてハンコを押す。
最初に入った男性が上がってきている
「あんた、こっち側、男湯だよ」
「ありがとうございます。男ですよ~!」
笑顔での対応も慣れたものである。

こちらが笑っていれば
相手も大抵笑ってくれる。
多少の性格の差こそあれ
気にせず笑っていればいい。

旅路で得た経験則。

「ぼく、よく言われるんですよ(笑)」
「そらそうだなぁ(笑)」

なんでもないことも
ストレスにしないのは
ただ笑うことで解決する。
単純で難しいことはない

ただ慣れていなかっただけだ。

玄関には下駄箱。浴場への引戸がある。
柱や梁の色合いが爽やかだ。
豆青(とうせい)という色合いだろうか。
それに壁の白が映える。

入ると、タオルのひいた長椅子と脱衣所。
小さな段差があり、低い位置に広い浴場。
浴槽も中央に広く。やはり清々しい。

お湯は、ぬる湯だった。
おそらく先客が水をたしたのだろう。
浴槽内の出湯口からは源泉だろうか
熱いお湯が出ていた。迂闊に触ると
火傷しそうだ。ちょうどいい距離をとる。


じっくり浸かっていたら

時間は12:30になろうかとしていた。

いかん。急ぎ出る。



お昼込みで1時間近くいてしまった。
次はビーコンプラザ近くに
文化の湯ってのがあるはず、、

スマホで場所を確認する。


え!?

臨時休業?

確かに開いてないらしい。
調べておいて良かった。

では、近場で行くと
少し離れてしまうがここか。




25分ほどの小走り。
坂を横に突っ切るように
錦栄温泉からひたすら北上する。
野球場やグラウンド横の道を抜ける。

13:00

到着。


午前中、間近にあった別府タワーが
遥か遠くに見える。


湯の香る沢があり
橋を渡るとそれはあった。



16湯目 芝居の湯

なんだか、本日に相応しい場所に思えてくる

観光客だけでなく
市民も多く集うのだろうか、駐車場が広い。

また、ここはこれまでの共同浴場とは
コンセプトが違うようだ。規模がでかい。

かっぱの湯とも、どこか違う。
広めの施設。さっそく中へ。

「芝居の湯」か。なるほど。
旅芸人のポスターが
受付すぎるとちらほら。
定期的に舞台公演があるのだろう
四日市にもこの様な、浴場とセットの
演芸施設があった気がする。

詳しく施設内を見て回れなかったが
おそらく演芸専用の舞台もあるだろう。


しかし、まあ、こちらの予定は別にある。
舞台開演は14:00である。
すでに幕開けまで、1時間を切っている。

手早くお風呂に入って
舞台会場へ向かわなければならない。

舞台開演の1時間前に風呂に入る。

正直、どうかしていると思う。



脱衣所、浴場ともに大変広く
なんとシャワーもあった。さらには
シャンプーやボディーソープもある。
貧乏性なので、あると使いたくなる。
髪をほどき、頭から湯をかぶる。


時間ないけど…!
さっぱりしてから…!
舞台観るのもいいよね…!


何か自分に言い聞かせるように
わしゃわしゃと洗う。



ザバッと流して、ざっくり絞り
髪をまとめあげて、湯に浸かる。

広い浴槽の他、打たせ湯もあった。
軽く打たれる。気持ちいい。


だが、気が急く。
頭を洗っちまったから。

乾かさないといかんし。
ビーコンプラザまで
文化の湯よりは遠いから。

ほどほどにして出ようにも

なかなか快適な温泉に

のびのび浸かりたい。


いかんいかん。

出ねば。



頭を乾かすのに
備え付けのドライヤーを使う。

長い髪の人の苦労は
髪を長くしなければわからない。
実感を伴いながら理解する。

身支度が遅くなる人のことを
急がせてはいけない。

人には人の、遅れる理由があるのだ。


そんなことを考えながら
ある程度、水気をとって
頭の後ろで髪をまとめる。

時計を見る

13:35

開場時間はとっくに過ぎてるぅ!

急ごう。

昨日ゲットした、ピンクのTシャツを着る。

グラウンドや野球場のある
広い運動公園内を突っ切ろう。
真っ直ぐ南下すれば会場だ。


めちゃめちゃ清々しいグラウンド
湯上がりに昼寝できたら最高
(そんな余裕はない)

あー気持ちいい風が吹いてる。

髪もすぐに乾きそう。

昼寝したい。


時間ないからダメだね!


早足でビーコンプラザへ向かう。





会場は昨日より賑わっている。
小学生や若い子達が目立つ。
チケットを配布された子らだろうか。

なかなか売れ行きも厳しかったであろう
今回の公演。子達に料金がかからないよう
主催が取り組んでいたのを知っている。

全国各地から
「会場へは行けないけど支援したい」という
声を拾い、チケット代を募り、見ず知らずの
こどもたちのチケット代として
集約、還元した結果。

子らよ、存分に楽しめるといいな。
少しだけ、胸にくるものがある。
ただの、観客の1人なのに。
赤の他人なのに、おかしいね。

2日目は一番後ろから観ることにした

原田茶飯事さんや、熊谷拓明さんの
共演も楽しみだ。
どんな世界が見られるのか。

昨晩、スマホを充電してから
ツイッターを遡っていたら
茶飯事さんは市内でライブをしていた。
渡邊富商店。
この名は後にも、耳にすることになる。

https://twitter.com/harada_sahanji/status/1588820324833202176?t=4y1bfX9K_Qfmvfk49J3S2A&s=19 

ああ、充電さえ切れていなければ
きっと聴きに行けたのに。
小さく後悔する。

ふと、昨晩から今朝にかけての
爽やかすぎる天気を思った。

よく乾燥していた。

言い知れぬ不安が訪れる。






暗転、そして。

まるで映画館のアバンのような
派手な映像と、勇ましいナレーションが
幕開けを告げる。
昨日にはなかった演出だ。
紗幕全体が、美しく、よく見える。
映像がとてもかっこいい。
最後部席、最高席。

パッと舞台が明るくなり
奈落が競り上がる。

ロクディム、登場。

あれ?
1日目よりカッコよくなってる?

メンバー挨拶のあと、ゲストの
熊谷拓明さん、原田茶飯事さんが
続いて、奈落から競り上がる。

二人の挨拶。

その時、はたと気がつく。

四日市で初めて会った日と同じ…!

茶飯事さん、喉が…!!

あの日の再来。

不安が当たってしまった。


ロクディムによる即興芝居の前に
たっぷりゲスト1人ひとりで
演舞、演奏するプログラムらしい。

まずは、熊谷拓明さん。

熊谷さんはダンス劇作家。

しなやかな体の所作、筋肉の躍動に
落語風の現代劇のエッセンスを入れると
感情の動きが体の線の筋スジから滲み出る。

あとから気がついたけれど
油売りをする彼のモチーフは
油屋熊八さんだったのだろうか。

人情劇のようでもあり
体で表情を感じられるとは新鮮な感覚。
じわりと出てくる動きに目が離せない。
おかげで写真を1枚も撮れず。

魅了とはこのことかと感心する。




原田茶飯事さん。
また、あの日のあなたに
再会することになろうとは
思ってもいなかった。
きっとご本人が一番
忸怩たる思いではなかろうか。

ただ、舞台上。彼は普段と変わらず
できることをできる範囲で歌い上げる。
ぼくの考えが杞憂だったのだと
すぐに思い知らされる。

そうだ。彼は、四日市のあの日だって
逃げなかったし、かといって
戦う素振りも気取られることはなかった。

まるで羽毛のように軽く、ふわりと歌う。

声は1オクターブ低くしたとしても
彼の魅力は変わりようがない。
茶飯事さんは茶飯事さんだからだ。

いつもの歌声は
ちょっとお休み。
聴き続ければ
きっとまた出会える。



ぼくは、昨年から音楽を聴きだした
「にわか」だ。ミュージシャンは
原田茶飯事さんに限ったことではない。
出会い、琴線を震わす音楽については
聴くのをやめず、しつこく聴き続けた。

きっとこれからもそうだし
今だってそうなのだ。

ちょっとでも残念に思った自分を恥じた

出会い、あの日の再来にさえ

感謝すべきだったのだと気付かされる。


随所で照明が素晴らしく
音と光の調和も舞台の見所となる

茶飯事さんはやりきった。



舞台上に、ロクディムが再び現れる。
これからどんな話が飛び出るか
誰にもわからない。

観客の経験、体験から生まれた
たくさんの「言葉」が唯一の道標だ。

舞台に舞う みちしるべ



初日とはまた違う展開。

全く新しいストーリー。

ロクディムの舞台は

一度として同じ話はない。

泣いて笑った昨日とは

うって変わって。

驚嘆と興奮溢れる内容だった。

熊谷さん、茶飯事さんも交え

歌あり躍りあり、まさに大団円。


ぼくはまた、この2日間の公演が
どこかアーカイブで公開されないかと
淡く期待していた。
が、暫くしてから記録用にのみ
カメラを入れていなかったと聞く。

貴重な体験を目撃できたのは
宝石のように心に輝いている。



終幕





ロクディムには二人の共同主宰がいて。
渡さんと、もう1人、カタヨセヒロシさん。
カタヨセさんの後日のツイッターに
舞台上の綺麗な写真が上がっていた。
写真は谷知英さん。

皆、生き生きしている。

https://twitter.com/6ktys/status/1589598718063685633?t=ztN1vpC_0oHzs3MHauxacA&s=19 

https://twitter.com/6ktys/status/1589976260369059842?t=rJc6dRmS0ylhzPsUSMtalA&s=19 

https://twitter.com/6ktys/status/1589976760007163904?t=GzJJmG48AGSou_y7G5gy0A&s=19 


挨拶の後、舞台上から客席に向けて
集合写真を撮ることに。

ぼくは最後列だから
黄色のタオルを両手で掴んでバンザイをする。
その様子に、カタヨセさんが気付く。
声があがる。
「あっタオル嬉しい!
 前の人はかぶらないようにしてね!」
こちらも嬉しくなる。

同じタオルを肩にまわし
終幕の別れとなる









舞台に一礼して、ロビーへ。

昨日と同じように
ハイエナみたく人波が引くのを待つ。

ホール脇の階段下から
茶飯事さんが上がってくる。

「きちゃった///」
「はぐぱぱぁ…!」

目を丸くさせる茶飯事さん。
あの日の再来だねと
互い短く言葉を交わす。

「みなさん待ってますから」
ぼくは茶飯事さんをブースへ送り出す。

ブースにはたくさんのお客さんが
列をなしている。

昨日と同じくアクリル板があり
きちんと飛沫対策がされている。
みんなちょっと声が遠いのか
話を聞き取りづらそうではある。

それでも
ロクディムの面々と
お客さんたちは、互いに
感謝を伝えあっている。

ほどなく

若干、人が落ち着き始める。

少年が2人、右端のブースで
白いTシャツにロクディムメンバーの
サインを集めている。
りょーちんさんがサインを書き
写真に応じる。
少年たちはTシャツを胸に抱き締め
宝物を見つけたように、はしゃぐ。
余程嬉しかったのだろう
満面の笑みで何度も何度も
ありがとうございます!と
元気よく伝えている。



ああ、美しいな。

こんなに純粋な喜び。

目の当たりにしている。

人の喜びを見て

涙、流す。

こんなこともあるのか。


ほぼ人が引いてから
ぼくも左端から、ブースへ。
来られて良かったことなど
1人1人へ感謝と喜びを伝える。

それぞれが
完走したことへの充足と
興奮冷めやらぬ様子。

良かった良かった。
楽しめて。本当に良かった。

最後にお話しできた2人と。
一緒に写真を撮る。

写真の時だけマスクをずらしてパシャリ


「間もなく閉館します」


スタッフさんの声。


名残惜しいね。


皆さんへ、深々お礼をする。


それから

片手を上げて、バイバイ。


ロビーの階段を駆けて登っていく。









つづく












次回 第12章
月夜の湯巡り
~最後まで走り抜ける~


御期待ください





別府八湯温泉道公式HP
https://onsendo.beppu-navi.jp/ 


かけ流しクエスト
https://kakenagashi.com/category/beppuhattou 


6-dim 
https://6dim.com/ 


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