短歌「にじむ言葉」
痛しとて母訴ふる言の葉に紅く滲める淋しを撫づる
痛いには違いない。もちろん、痛いのだろう。だが、どこが痛いかと尋ねても、「分からん」と言ったり、黙っていたりすることがある。だんだんとことばも出なくなってきているので、痛いところをどこと言えない(例えば、「膝」ということばが出てこない)こともあろうが、どうもこれは痛いだけではなさそうだ……というときもある。
介助なしにはほとんどのことが出来なくなった母を思いやるよりも、動けないことを幸いについつい自分の時間を過ごしてしまう。
甲斐性はない。孫はおろか、妻も見せてやれなかった親不孝な息子が、母にしてやれるのは、自分の時間を贈ることだけだと分かっていながら……。
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