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【レビュー#04】ドラマ『ザ・ボーイズ』―一般人はミサイルと戦えるか

こんばんは。灰澄です。
今回は、海外ドラマ『ザ・ボーイズ』2016-(原題The Boys)の紹介です。

現在、Amazon Primeで独占配信中のドラマシリーズ『ザ・ボーイズ』は、DCコミック原作のアメコミヒーロー作品のドラマ版です。

マーベル映画や『ダークナイト』シリーズの成功で人気ジャンルとなったアメコミ原作の映像作品には、社会問題をテーマに取り入れた作品も多くありますが、その中でも『ザ・ボーイズ』はかなりの異色作です。
風刺要素の強い本作は、昨今の世界情勢を踏まえて観るとより含蓄があり、今このタイミングだからこそ見たい作品だと思い取り上げてみました。

『ザ・ボーイズ』には、超人的な能力を持ちながら人格の破綻した極悪ヒーローが多く登場します。そして、それらのヒーローへの復讐を狙う一般人が主人公です。
社会的にも身体的にも無敵の力を持つ強大な敵に、一般人はどう立ち向かえるのか。配信限定コンテンツだからこそ可能な過激な表現で描かれる、グロテスクで反骨的なアンチヒーローの戦いが本作の魅力です。

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では簡単にあらすじを。
基本的にはネタバレ無しの紹介ですが、動画のあらすじ欄に載っている程度には物語の内容に触れるので、事前知識無しで観たい方はご注意下さい。

あらすじ

アメリカでは、人命救助や犯罪解決の為にヒーローを派遣する会社、ヴォート社に所属する七人のヒーローチーム「セブン」が国民的英雄として活躍しています。
物語の主人公、ヒューイは家電量販店の店員として、恋人のロビンとのささやかな幸せを大切にしながら暮らしていました。そんなある日、ロビンが「セブン」の一人、超高速ヒーローのAトレインに轢き殺され、ヒューイの人生は一転します。

全ての始まりとなるロビンの死の描写は本当にショッキングであり、心臓の弱い方、残酷描写が苦手な方は視聴に注意が必要です。
このシーンだけでなく、本作品の暴力描写は本当に過激で、人によっては気分が悪くなってしまうかもしれません。また胸糞悪くなるような性描写も多くあり、当然のことながらR18指定です。

ロビンの死は、任務中の事故として処理されます。
ヴォート社は形式的な謝罪を発表し、賠償金と引き換えに事故について言及しないという契約をヒューイ持ち掛けますが、事実とは違う報道や、恋人の死が軽く扱われていることに憤ったヒューイは契約を拒否します。
国民的英雄と圧倒的な権力を相手にどうすることもできず失意に沈むヒューイのもとに、FBIを名乗る男、ブッチャーが現れ、ヒーローへの復讐を持ち掛けられます。

こうして、ブッチャー率いるアンチヒーローチーム「ボーイズ」に参加したヒューイは、ヴォート社との戦いに身を投じることになる、というのが本作品の概要です。

ミサイル vs 一般人

マーベル映画をはじめとする従来のヒーロー映画では、始まりの物語としてヒーローの覚醒が描かれます。粗暴や性格や身勝手な思考など、人間としての欠点を持った主人公が、内省と克己を経て英雄として立ち上がる、というのは、ヒーローの人格の土台となる重要な過程です。
だからこそヒーローは強大な力を人助けや大義のために使うわけですが、ヴォート社のヒーローはモラルや精神性が欠落しており、強大な力はその身勝手な思考を助長させる装置になっています。

「大いなる力には大いなる責任が伴う」というのは、スパイダーマンに登場する有名な台詞ですが、残念ながら、その二つは必ずしもセットではありません。無責任に力を振るうこと、力で責任を握りつぶすことが横行する状況は、残念ながらあります。
力は往々にして高潔な精神を伴わないし、独善的な暴力が裁かれることなく振るわれることも現実には珍しいことではありません。

セブンは、ヴォート社という社会的な権威と超人能力という身体的な力に守られた無敵の存在であり、セブンの横暴に立ち向かうボーイズの戦いは、一般人が素手でミサイルを止めようとするような無謀です。
正攻法では絶対に勝てない敵に対して、ボーイズは泥臭くあらゆる手を尽くして逆転の一撃を狙っていきます。

暴力にしかける「情報戦」

本作品で印象深く描かれるのは、「情報戦」です。
SNSをはじめ、情報をコントロールすることが、ヒーローたちとの戦いを左右していきます。ヴォート社とセブンにとって、国民的英雄という立場は、自分たちを守る盾であると同時に、維持しなければならない命綱でもあります。いかに無敵の存在でも、世間から追われれば未来はありません。
ヴォート社は社会的な支持を受け続けることを絶対視しているし、セブンの面々も人気者で居続けることに固執しています。

ヴォート社とセブンにとって、反対勢力を殺害するのはいともたやすいことですが、社会の目が無尽蔵な暴力のストッパーとなっているのです。

セブンのリーダーであり、最強のヒーローとして人気を誇る「ホームランダー」は、その気になればあらゆるものを破壊できるほどの圧倒的な存在です。物理的に彼を止めることは、ほぼ不可能といっていいでしょう。しかし、そのホームランダーですら、「大衆の情報」という集合の力の前では思う通りに動けません。

著名人のスキャンダルから、国際的な紛争まで、現代において情報戦の影響力は計り知れないものとなっています。
一つの強大な力が全てを席巻できるわけではない、というのは、世界が肌身で感じていることではないでしょうか。しかし同時に、理性を失った暴力がどれほど手のつけられないものか、ということも実感します。

『ザ・ボーイズ』で描かれる戦いは、まさに現代におけるあらゆる戦いを戯画化したものに見えます。この作品が公開されたのは、2019年ですが、その後コロナ禍をはじめ、世界は多くの社会混乱を経験しています。
今後のあらゆるフィクション作品にとって、特に情報の在り方についての描写は、より生々しいものになっていくのではないでしょうか。

現代の諸相を、アメリカ社会のセルフパロディと皮肉を煮詰めて、むせ返るほどの暴力とグロテスクをこれでもかと振りかけた。そんな作品です。

灰澄的お気に入りポイント

ちなみに、私のお気に入りキャラはボーイズのリーダー的な存在であるブッチャーです。
ブッチャー役のカール・アーバンは、『ロードオブザリング』でローハンの騎士エオメルを演じていました。エオメルは規律と忠義を重んじる高潔な騎士でしたが、ブッチャーは粗暴が服を着て歩いているような、輩の中の輩ともいえるキャラクターであり、対照的な役柄です。
アウトローなオヤジが好きな私としては最高に癖に刺さります。毎回予想の遥か上をいく暴言と悪態も見どころの一つです(個人的に)。

また、作中のBGMとして70年代から90年代のロックミュージックが使われているところも印象的です。特に、物語序盤で、イギリス人であるブッチャーのファイトシーンでクラッシュのLondon Callingが流れるのは純粋に格好良くてテンションが上がります。
ヒューイが毎回バンドTシャツを着ているので、今回は何のバンドか見てみるのもトリビア的な楽しみですね。

メインヴィランの一人であるホームランダーの能力や風貌が、DCコミックのナンバーワンヒーローであるスーパーマンを思わせるものであったり、その他のセブンの面々もフラッシュ、アクアマン、ワンダーウーマンに似通っていたりと、なにかとパロディ要素が多いです。

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DCコミックには、アンチヒーローをテーマにした別のタイトルとして、『ウォッチメン』がありますが、こちらもバイオレンスと反骨に満ちた陰鬱な物語であり、個人的に好きな作品です。

まとめ

2022年3月現在では、シーズン2までが配信済みで、6月にシーズン3が公開される他、シーズン4の製作も既に発表されています。
原作モノの海外ドラマではもはや定番ですが、『ザ・ボーイズ』も原作コミックとは大きく違った展開になっているので、今後の物語は誰にも予測できません。社会風刺が強い作品なので、よりリアルタイムの世相を反映したものになるのではないでしょうか。

圧倒的なバイオレンスとグロテスクなまでの社会風刺は、個人的には物を考える良いきっかけになりました。純粋なエンターテイメントとしても十分に面白いので、過激描写が平気であれば、とてもオススメな注目作品です。

では今回はこの辺で。
次回の記事でお会いしましょう。

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