ブックガイド(108)「深淵のガランス」(北森鴻)


ある種、ハードボイルドでもある

 主人公の佐月恭壱は銀座の花師である。バーや料亭などに花を生けるのが仕事だが、もう一つ、絵画修復師としての陰の顔があった。
 バブル崩壊後に、投機対象だった絵画が溢れ、美術業界に生臭い風が吹いている世界を舞台に、佐月に依頼される修復案件をきっかけに事件が始まる。
 2006年の作品である。2010年、作者・北森氏は48歳の若さで亡くなられた。氏の「蓮丈那智フィールドファイル」シリーズを読んで、その面白さに打ちのめされたのが、2010年の1月だった。そしてその感動冷めやらぬ同じ月の25日に、作者の訃報を知った。読者としてショックだった。
 絵画修復というプロの仕事に大いに興味を覚えた。決して派手なシーンや展開はないのに、冒頭から読者を捉えて離さない話力。
 表現力もさることながら、キャラクターの魅力が大きい。彼らの纏うイメージや印象が、丁寧に描かれている。キャラの描写といえば外見だと思っている書き手の人たちは、この作品でキャラの描写を学べると思う。心情の描写でもキャラの背景が描けるのだ。
 本当は、北森先生の新しい蓮杖那智シリーズが読みたいなあ、と敵わぬ願いを呟いてみる俺である。映像化も希望。一遍だけドラマ化されてるけどね。
深淵のガランス
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蓮杖那智フィールドファイル

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