小説指南抄(13)公募における加点ポイントとは

(2020年 07月 07日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)

公募における加点ポイントとは

 私の生徒さんには、インターネット上の投稿サイトに飽きたらず公募に挑戦する方が少なくない。
 彼らがぶつかる壁が予選通過である。投稿サイトでは膨大なPVをあげてたくさんの「いいね」をもらっているのにどうして二次予選を突破できなかったのか等。

 投稿サイトでは、「荒削りでも一点気に入る」ところがあればかなりの人気を得ることができる。だからこそ、指導や教育前提の新人(原石)発掘に適している。
 一方、公募の方は、「最後まで読ませる力」「破綻していない構成」「正確に伝える文章力」等は「基礎構成技」として当然で、後は他作品にない「独自の何か」の有無が「加点ポイント」になる。

 つまり公募での戦いは「減点ポイントを減らして完全にする」ではなく「その上でどれだけ加点ポイントを積み上げるか」になってくるのだ。

 この加点ポイントは作家自身が見つけるしかない。実は、私自身が一番悩んだ、いや今でも悩んでいるのがこれなのだ。

 私が二十三歳で初めて書いた小説は大藪春彦作品を模倣したヴァイオレンス小説で、周囲からは「大藪っぽくて面白い」と言われたが「読ませきるおもしろさ」はあっても「~みたい」どまりで、抜きんでた何かには欠けていたのだ。

 三十歳になるまでに、小説4本とシナリオ2本をコンテストに送っていたが、いつも一次予選通過作品の中の一つで、「太字の作品は二次予選を通過しました」の中には入れなかった。

 初めて最終候補になったホラー作品(一九八九年)も「大好きなラブクラフトの設定を日本に持ってきただけ」(半村良先生!読んでもらえただけで感動)と酷評された(クトゥルーものってそういうもんだろう的なつっこみはさておいて)

 初めて佳作入選した作品でようやくその加点ポイントにうっすらと気づかされた。

 その賞はテレビドラマ用のビジネスストーリーの公募で、大賞受賞作品は「オークションに出品するフェラーリの幻の名車」の偽物を作る職人たちが、当初の打算や金銭欲を超えて本物同様の名車を作り上げていく過程でクラフトマンシップに目覚めていく物語であった。今まで聞いたことのないストーリーに感心させられた。

 佳作に入選した他の作品群も、「製薬会社の宣伝部を舞台に偽薬をプロモーションで売りまくる話」や「投資会社でディーラーをするサラリーマン」や「ソ連と日本の留学生達の青春」など、どれも他に似たような話はなかった。
 私の作品は「衆院選を巡る選挙広告の取材合戦の内幕」を「神様のお告げで立候補した老婆」を軸にして描いたユーモア作品で、バブル期のきらびやかで派手な広告業界を描いた応募作が複数あったであろう中では「地方の新聞広告営業」という地味な世界をユーモラスに描いた異色作だったのである。
 公募における加点ポイントは、「作品の舞台、設定。モチーフ」などの珍しさだけでなく、「作者の感性」「登場人物の魅力」など、多岐にわたる。作者個人の「嗜好」や「職歴」すらそれにつながる。私の場合は「うつ」体験から得たポジティブ思考や「笑い」のセンスだろうか。

 自分の作品、作者としての自分の「加点ポイント」を一度考えてみるとよいだろう。自分では気づいていない「何か」を発見できるかもしれない。

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(追記 2023/07/27)
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