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息子の意外な「推し」

「おれ、錦鯉よりすきな芸人できた」

ある日の夕食後、何やらにやにやしながら息子が打ち明けてきた。

なん……だと……?

息子よ、いつもお母さんと一緒に錦鯉のボケ担当・長谷川まさのりさんのマネをしていたじゃないか。

昼夜関係なく「こーんにーちわー!」と叫んだり、何の前触れもなく「のりのり♪のりのり♪のりのりまさのり♪」と踊っていたではないか。

私は思春期を迎えた息子に「おれ、好きな子できたんだ」とでも言われたかのように怖々と尋ねた。

「え……誰?」

「永野」

「……え?」

他人からその名を聞いたのはいつぶりだっただろう。
かろうじて今年、昼のテレビ東京の番組で袋ラーメンみたいな髪型に変貌した姿を見かけていた。

しかし彼は息子が産まれる前にプチブレイクした芸人である。何故知っているのだろう。

「え……なんで永野知ってんの?」

「『わらたまドッカーン』でみた」

息子はなおもにやにやしている。

「わらたまドッカーン」はNHK教育テレビのお笑い番組で、今年の4月からは毎週木曜19時45分に放送している。

形式は昔放送されていた「爆笑オンエアバトル」に似ている。
2組の芸人がネタを披露し、子どもたちの審査で勝敗が決まるのだ。

出演する芸人は売り出し中の若手から過去の「オンバト芸人」まで多岐にわたる。
たまに小島よしおなど、いわゆる「一発屋」のなかでも息の長いピン芸人が出ることもあるので油断ならない。

ああ、『わらたまドッカーン』ね。あの番組で見かけたのなら何ら不思議ではない。

夫曰く、放送時間が変わる前に日曜の朝放送していたのを観たらしい。私は家族のなかで起きるのが一番遅いので、見逃してしまったのだ。

永野のネタは至って単純である。
コミカルな音楽とともに髪をかきあげながら歌い出す。お決まりのフレーズはテレビでとんと見かけなくなってもすぐに思い出せる。

「永野は新ネタでもやったの?」今度は夫に尋ねてみる。

「いや、昔と同じ。全然変わらない」

「ぜんっぜん」と夫が強調するので思わず笑ってしまった。

一体何が息子のツボだったのか。
タブレットでYouTubeを起動して「永野 ラッセン」と検索する。

ゴッホより〜普通〜に〜
ラッセンが好き〜
ピカソより〜普通〜に〜
そうラッセンが好き〜

名だたる画家より現代アーティストのクリスチャン・ラッセンがただ好きだと主張するだけの歌。
それが芸歴20年以上を経て行き着いた永野の渾身のネタである。

仕上げに「あ゛あ゛いっ!」と奇声を上げる永野を観て、息子が「ぐふふっ、きゃはっ」と身をよじった。
もう一度別のネタ動画を流すと、永野に合わせて「あ゛あ゛いっ!」と声を弾ませていた。

ああ、息子は「うるさい」のが気に入ったのだろう。それなら納得がいく。
息子も何かと騒ぐのが大好きな、とにかく賑やかな子なのだ。

私も永野は嫌いではないので、容認することにした。変わった趣味だとは思うけど。


この記事を出すにあたって、改めて息子の好きな芸人を聞いてみた。

「まさのりと永野」

普段は永野の話など全くしないため、まだ好きだったことになぜか安心した。

「両方ともキワモノだな」ぼそっと夫がつぶやいた。


※ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリーよりお借りしました。ありがとうございます。

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