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ハートシェイクタイムマシーン

夜な夜なナニをすることもなく過ごす夏。無音の部屋でイヤホンをして下界をシャットアウトしカッコいい音楽やら、どうでも良い陰謀論の話やら、可愛い女の子の写真に辿り着きニヤニヤする。そんな日々を送っていた。

平成は終わるというが、どうも僕は「平成ロス」とも取れるような症状にある。自分の育った時代が終わることにどう立ち向かっていいのか分からない。そしてそれを考えると空虚感が自分を襲う。どうですか、新しい精神病として登録しませんか。
そんなことはどうでもいいのだが、宇宙について考えると怖くなって眠れなくなるあの状態が慢性的に続いている感じである。

どうしたものかと、10年前に上がっていたYouTubeの動画を見て余計に寂しくなっていた中、僕は凄いものを見つけてしまった。

https://archive.org/web/web.phpこれである。このページに飛ぶと検索フォームに飛ぶ。そしてそこに任意のサイト名を入れるとカレンダーが出てくる。そしてそのカレンダーの任意の日付を選ぶと、なんと!サイトがその日付の状態で表示されるのだ!
まさにタイムマシーン。
つまり、Yahoo! JAPANで検索し、2002年の日付を選択するとその日のYahoo! JAPANが出現するのだ。

これが2002年のYahoo! JAPANである。

何て懐かしいんだ。僕がまだ小学生の頃、初めてパソコンを触った時に出てきたものと同じものが目の前に出てきたのである。ここから「きっず」を見つけるのがどれだけ難しかったか…

他のサイトも調べてみた。YouTubeであったり、グーグルであったり…今と全然違う。何というか、見にくいし、デザインも酷い。でもこれが初めてインターネットに触れた時に広がっていた景色である。
時代の狭間に取り残された僕にとって思い出に浸れるこのサイトはまさに長年帰ることが叶わなかった故郷のようである。

しかし…これを見て確かに懐かしいのは懐かしい。だが何かが足りないのである。今更Yahoo!キッズのゲームをやったところで「あー、こんなんだったな」くらいの感想しか出ない。1回やってそれで終わりなのである。当時は小学生だったからのめり込めたが、今はいい歳のオッサン。(「プーさんのホームランダービー」は別である。あれは未だに職場で暇な時にやっている。)
「僕は何て汚れてしまったんだろう」と思ったが、それも定めである。成長するとは汚れること。
だが、僕は何としてもこのサイトでもっと純粋に懐かしさに浸りたい。あの複雑怪奇だった頃の心を取り戻したい。どうしたものだろう。

当時まだパソコンは安くなったとはいえ、まだ高価なもの。一家に一台あるかどうかの時代。僕の家には幸いにもパソコンがあった。だが、まだ家族で一台を使う時代。
小学生の頃はまだ純真無垢で女性器の通称も知らなかった僕は如何わしい使い方をまだしていなかったが、中学で男子校に入ったことにより事態は一変したのである。

いかに親の目を盗んでエロサイトを見るか。
これが、生きる上での至上命題となったのである。それにこういったエロサイトはコンピューターウィルスの温床で、下手したらパソコンが壊れる。そんな事になってしまえばもう僕は家を勘当される。母親のメシを一生食えない人生を送る事になるのだ。
だが、思春期特有の押さえられぬ性欲と、学校という場所で抱えるストレスを発散せねば気が狂ってしまう。

ただ僕は男子校にいる。彼らは性欲の猛者である。彼らは独自の情報網を手にしていた。僕はそれを頼りに自身の経験を積んだのである。
「サイトの縁にある広告は絶対押してはならない」
「リンク先は必ずカーソルを合わせてURLを確認せよ」
「万が一フリーズしたら強制終了して良い。それくらいでパソコンは壊れない」
「履歴は必ず消すように」
本当に今でも為になる話ばかりである。お陰で未だにエロサイトを見るときは必ずプライベートモードにしている。
そしてこれらの有益な情報と自身の勘を頼りに新たな刺激を求めて夜な夜な電子の海に船を漕ぎだしていたのだ。

2002年のYahoo! JAPANのページを見て僕はその記憶に浸っていた。
「そういや何て調べればエロいサイトが出てくるのか分かんなくて『エッチ』って調べたなあ…」
当時、「エッチ」と調べて確かにエロサイトは出てきたのだが、あまりに他のどうでもいい情報が引っかかりまくっていたのが懐かしい。しかもエロサイトも「有料会員限定!」というのが多くて、サムネイルでどうにかするしかなかったのである。ほろ苦い記憶だ。

そんな思い出に浸りながら画面を見つめていたとき僕はふと、「当時お世話になったサイトってどうなっているんだろう」と疑問を持った。
「まだ元気でやってるかな」くらいのつもりで検索したのだが消えているものばかり。当たり前といっちゃあ当たり前である。でもどこか寂しい。
「こういうサイトもこのタイムマシーンで見ることができるんだろうか?」
僕は記憶を辿り、何とか名前が出てきたサイト名を入力する。

出てきた。なんと、出てきたのである。

当時、まだYouTubeの様な動画サイトはほとんどなかった。天下のYouTubeですら、アングラ臭漂う怪しいサイトだった時代である。記憶ではメチャクチャカクつく、イライラさせられるサイトだった気がする。しかも規制もガバガバで、グロい動画とかも平気で上がっていた。当然そんなサイトは危険だということで使わなかった。
じゃあどうしたか。そう今や絶滅危惧種のフラッシュである。
皆さんの中にも「おもしろフラッシュ倉庫」を覚えていらっしゃる方は多数いるだろう。動画が見れないからフラッシュを見る。
「ウォーリーを探さないで」や「チバ、シガ、サガ」や「赤い部屋」何ていうのはカルト的な人気を博していた。

そして、もちろんエロに関してもフラッシュ全盛期である。
エロフラッシュのみをまとめたサイトがゴロゴロあり、当時の僕はお世話になった。最初は怪しいまとめサイトに飛び込み、そこからURLを確認しながら安全で優良な個人サイトに飛ぶ。そこには良質なエロフラッシュが大量にあった。当時の僕はいくつものエロフラッシュサイトを股にかけ、夜な夜なあらゆるサイト間を飛び回った。まるで石川五右衛門の様に。
そしてそれに飽きたらエロ漫画が大量に保管されているサイトに移る。そこも今考えると凄くて、所謂「エロ同人」が大量にデータ化され、無料で読み放題だったのである。ただここは物凄くお世話になったのにサイト名を失念してしまった…何という不覚。

そんなこんなで僕は当時お世話になったエロフラッシュサイトに辿り着いた。
「ああ!こんなトップページだった!!」
僕は目頭に熱いモノを浮かべていた。そう。このサイトは男子校ネットワークを使わずして己の経験と勘のみで最初に辿り着いた最高のエロサイトだったのだ。
「久しぶりだね…私のこと思い出してくれて嬉しい…」
トップページで全裸になっている某アニメの登場人物は薄っすら涙を浮かべながら僕にそう語りかける。いや、実際には語りかけていない。だが僕には屈強な男に犯される直前のその子が実際にそう言っているように聞こえた。
「ほら、中も見てって…」
え、中も見れるんですか?
僕は左横のメニューバーにカーソルを合わせる。すると、やたらと懐かしいページに飛んだ。これはすごい。
もしかしてまだここにあるエロフラッシュは見れるんだろうか…
見れたのである。しかもゲーム形式のものも当時のままありありと動かせる。
僕はあまりの嬉しさに1人雄叫びを上げてしまった。

さて、どうしようか。じゃあ次はあのサイトを見てみようか。
「検索っと…」
すると、コイツも綺麗な顔をしてやがる。ここで1番やったゲームである「脱衣ブロック崩し」をやってみた。
このゲームにはステージが1〜4まであり、クリアするにしたがって脱がせる衣服が変わるのである。
最初はマントを脱がし、次は上着とスカートを脱がし、その次はキャミソールを脱がし、最後に下着を脱がす。本当に良く出来たゲームである。
当時僕は親の前では至極健全なブロック崩しで腕を磨き、親がいない時にその腕前でこれらのゲームを楽々にクリアしていたのである。
あの時みたいに出来るかなあ。僕はスタートボタンを押す。
すると「君が私に勝負?いいよ、勝てないと思うけど♡」なんて生意気な事を言いやがる。
おいおい、クソガキ時代の俺に叩きのめされてたのを忘れてんのか?今すぐ分からせてやんよ!!


ステージ1から僕はライフを4つも失う。残りは12。次のステージで6つ失う。そしてその次で5つ。最後は凡ミスでクリアできず…
あれ?こんなに難しかったっけ?再度チャレンジする。しかしまたも僕はクリアできない。
当時のあまりにも残念な物理演算のせいでボールはどこに飛ぶのか予測ができない。しかも訳の分からないタイミングでスピードが上がる。もうお手上げである。
僕は最新のゲームが織り成す、高性能の物理演算に身体の芯まで毒されたのだろう。それに加えて動体視力も落ちている。ああ…なんて情けない。

最後のサイトにアクセスしてみる。ここは僕が思春期真っ盛りの時に閉鎖していた記憶があるが…
本当にこのタイムマシーンは凄い。なんとこのサイトもフラッシュまで見れるのである!!
2000年代後半入ってすぐの、荒削りのフラッシュ。画面下に並ぶ「超 高 中 低」という画質の選択はもはや何の意味もなしていないが、そこがまたいい。本当に懐かしい限りだ。
キャラクターの喘ぎ声が2重にも3重にもなるのも今や有り得ないことだが、これがまた僕の涙腺を刺激する。
「何をどうしたら人間がそんな風に動けるんだ?」とか「マ◯コの形全然ちげえよ」とか今やツッコミどころ満載であるが、そんな事を意識するのは無粋。僕は当時の無垢な心のままクリックを連打する。
当時はそのクリック一つ一つに重みがあった。だが今は「この後どうなるんだっけ?」という好奇心の方が強い。キャラクターの喘ぎ声がハウリングしようがお構いなくクリックする。
「こんなに長かったかな…」
僕はそのフラッシュが終わったときそんな感想を得たのである。あの時は狂ったようにゆっくりとクリックしていたのに…

そうして僕の思い出の旅は終わった。
当時の記憶では「メチャクチャエロいサイト」だったはずなのである。それはもう狂った猿のように川下りと川上りを繰り返せるサイトだったはずなのである。
だけど、全然センサーが反応しない。ムクリとも来ないのだ。壊れた訳ではないはずである。
確かに最近、絵を選択するタイプの性格診断で、「性欲が弱い、あまり男性性というもののない性格と言えます」と出てなんとも言えない虚しさを抱えたのは事実である。
だが、まだまだ息子センサーは健在である。夜な夜なDMMにお世話になっているのだ。だから未だ健全なのに。
…ヌケないのだ。

そうだ。これらを見ていたのは僕が中2になるまで。中2の時に「Yourfilehost」というエロ動画に強い動画サイトが出てきたんだった。そこからは僕はフラッシュから足を洗い、一瞬でリアルのおっぱいとリアルのセックスを見ることにしたのである。
そこからの動画サイトの躍進は凄かった。
YouTubeもアングラ系サイトからすっかり健全サイトへと変貌し、エロサイトはXvideosを始め、MegapornやTube8、Porn Hub、FC2アダルトとわんさか出てきた。
エロ動画サイトには毎日何百件ものエロ動画がアップされる。そして毎日違うものを見る。何故なら新たな刺激が欲しいからである。画質は荒かったが、実在する人間のセックスは迫力が段違いだった。そして楽にエロの一期一会を楽しむことができる。
「昨日は洋物だったから今日は和物で」
なんてことが容易に出来るようになったのである。

エロフラッシュサイトは新しいのが出るかどうかは運営者次第。更新は月に1回あればいい方なのである。
食事もどれだけ好きなものでもあっても1ヶ月同じものが続けば飽きてしまう。思春期真っ盛りの頃はそれでも飽きなかったが…
だが、あまりにも楽にエロのオードブルを楽しむ方法を覚えた僕は、そんなエロフラッシュサイトに飽きてしまったのだろう。
「いや、お世話になったよ?でももう動画の時代だよ」
多分、「Yourfilehost」に始めて辿り着いたとき、僕は心の中でこう思っていたはずである。
そうして、そこからは動画以外で腹を満たすことは出来なくなったのだ。

「人間の味を覚えた熊は、何度も人里を襲い人間を食う」これはマタギの言葉だ。
それと同じ状態に僕もあるのだ。

僕は思い出のサイトに再会し、嬉しかった。それは事実だ。
だが、それにアクセスし、実際に見るというのは避けた方が良かったのかも知れない。
見てしまったがために、自分が年を取ったことと、簡易なエロで満足していること、少年の心は取り戻せないことに気付かされた。

最後に。
確かにエロフラッシュではヌケなかった。それはまごう事なき事実だ。
だが、そんなエロフラッシュも今の僕を形作る一つの大事なピースなのである。
エロフラッシュ職人さん達、僕はこんなに大きくなりました…ありがとう。
そして、Yourfilehostを始めとする動画サイトたち。本当に若い僕に沢山の夢を見させてくれてありがとう。君たちが「違法アップロードだ」と叩かれても僕は君たちがいなかったら確実に歪な大人になっていた…ありがとう。

そしてこれからの未来の子供たち。君たちのためにも僕はエロ産業に金を落としていこうと思う。君たちにも夢を持つことを忘れて欲しくないからだ。
そして、画面の向こうで働く女優さんと男優さんには敬意を示して欲しい。決して「ヌケねぇなあ」なんて言ってはいけない。今日、この動画に出会えたことに感謝して欲しいのだ。
「あの男優はウザい」なんて思うこともあるだろう。でもね、彼がいないと君たちの大好きな動画は永遠に見れないんだ。だからそこはグッと堪えて。きっと社会に出た時、ここで堪えたことがきっといい経験になるはずなんだ。だから、今は堪えるんだよ。

そして本当に最後に。
ここまで発展してくれたインターネットを始めとする情報技術に最大の感謝を…

#エッセイ #タイムマシン #インターネット #2000年代 #下ネタ

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