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大人の事情にイルカは舞う/連載エッセイ vol.74

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「ほねっこくらぶ通信 vol.76(2013年・第3号)」掲載(原文ママ)。

『まぁ…随分と「世界」が拡がりましたなぁ…。』

様々な国の『入出国スタンプ』が、所狭しと押された自分のパスポートを眺めるにつけ、最近とみに思う。

そして今回、その『コレクション』に、新たな国々が加わった。
『南アフリカ共和国』、『ジンバブエ共和国』、『ボツワナ共和国』の3ヶ国…。

そう、南ア共和国・ダーバンにて開催された『世界カイロプラクティック連合(WFC)』の『第12回世界大会』へ、前々回のカナダ・モントリオール大会、前回のブラジル・リオデジャネイロ大会に引き続き、はるばる参加してきたのだ。

今回の旅も、実にイロイロな事が起こった…。

旅行会社を通じて事前に予約しておいた、空港からホテルまでを送迎してくれる車の運転手の父親が、偶然にも南ア共和国での第一世代のカイロプラクターだった事。

到着早々、ダーバンの一流ホテルから乗車したタクシーに、いきなりぼったくられた事。

会場となった国際会議場前に設置されたサイの彫刻に、相撲スタイルで勝負を挑む写真を撮影していたところ、周囲の現地人にバカウケだった事。

WFC公式ディナーで訪れたアフリカンレストランのショータイムで、ダンサーそこ退けで踊りまくり、大会参加者から喝采を浴びた事。

原因不明の体調不良に倒れ、硬い寝床を求めて床に布団を敷き、一日中寝ていると、事情を知らず入室してきたハウスキーパーの女性3名に、代わる代わる全力で驚かれた事。

大会後に駆け足で訪れたボツワナとジンバブエでは、夕暮れと映える象の群れに心底感動した事。

しかしその夜は、アラフォー男2人でダブルベットに寝る羽目になった事。

めったに出会えないライオンとも、至近距離で遭遇できた事。

世界3大瀑布、最後の訪問地となったヴィクトリアの滝が、案外そうでもなく、薄いリアクションに現地ガイドを戸惑わせた事。

帰国日早朝、夜明け前に起きて、樹齢2000年近いといわれるバオバブの木へ会いに出掛けた事。

そしてその道中、食事中の野生のイボイノシシにロックオンされかけて腰が引けた事…。

このようにエピソードを挙げればきりがなく、その1つ1つが立派な『エッセイネタ』になるパンチの利いたモノではあったのだが、今回はその中でも、『大人の事情』が垣間見えた、ホロ苦いお話をご披露しようかと思う。

今回、大会に参加する為に訪れたダーバンは、南ア共和国では『ヨハネスブルグ』、『ケープタウン』に続く、第3の都市…とされてはいるものの、『世界で9番目』という微妙なポジションの『ナタール港』を中心とした『港町』で、正直、観光資源は格段に少ない。

通常であれば、そんな中でも『街歩き』を通して、現地の生活を感じ取ろうとするのが私のスタイルなのだが、治安の極度に悪い彼の地では、それもままならない。
つまり、仕事以外では、あまり立ち寄る理由の見つけにくい街なのであった。

そんな中、この街、唯一のアミューズメントスポットとして大々的に宣伝されているのが、ビーチ沿いの『ウシャカ・マリンワールド』。
そして、大型プールやレストラン、ショッピングモールなどを併設するこの施設の中心となっているのが、世界でも10本の指に入るという規模の水族館・『ウシャカ・シーワールド』である。

『うん…コレ魅力♪』 

幼少時より成人に至るまで、田舎の内陸育ちな人間にとって、心躍る施設ではある。
そこで大会会期中ではあったがスケジュールを調整して、ランチがてら足を延ばしてみる事に相成った。

当日、インド洋の海の幸を堪能するランチに思いのほか時間がかかり、現地に到着したのが午後3時過ぎ。

しかしここで思わぬ事態に遭遇。
通常であれば、5時までの開園時間が、その日は何故か、4時までに短縮するという掲示が…。

『う~ん…
 これが「アフリカン・タイム」なのか…!?』 

ただそこで、訝しがってばかりいても仕方がないので、まずは駆け足で『アフリカ最大規模』という謳い文句の『イルカショー』を観に行く事に。

前振りの音楽が鳴り響く場内は、既にチビッコ達を中心とした家族連れで大盛況。
そして我々が腰を下ろすや否や、ショーの主役たるイルカ達、4匹×2チームの紹介VTRが流れると、場内はチビッコ達の期待感MAX!! 
そして、お目当てのイルカが登場するに至っては、チビッ子達、半狂乱!!!!
キャッキャキャッキャというチビッコ達の歓声が場内を埋め尽くした。

一方…大人達…というか我々のリアクションは…正直、微妙。

目玉であるイルカのジャンプの到達点が低い…。さんざんVTRで紹介していた割に、登場するイルカは数匹…。
最後はチビッコ達とイルカの『触れ合い』でお茶を濁す始末…。

『こ…これがアフリカ最高のイルカショー?? 
 日本のレベルが高いの?? 
 アフリカのレベルが残念なの?? 
 ドッチ??』 

釈然としない気持ちを抱えたままショーは終了し、我々は水族館施設を十分堪能する事なく、閉園時間に追われるように施設を後にし、世界大会へと合流したのだった…。

その日の夜。

WFC側が用意した『公式ディナー』は、ダーバン市提供の『ビーチパーティー』。
国際会議で訪れたビジネスパーソン対象に、市側がその魅力を売り込むべく企画したアピールイベントの側面もあるのだろう。

我々は、どこへ連れて行かれるかもわからず、とりあえず促されるまま乗ったバスに揺られる事、数分…。

あれ…!? 

この風景…数時間前に…見たような気が…!?

そう…バスはある意味『予想通り』、この街、最大にして唯一の娯楽施設・『ウシャカ・マリンワールド』へ着けられた。
そして、案内に誘導されるまま向かったのは…これまた『ウシャカ・シーワールド』…。

ごめん…ごめんよ、チビッコ達!! 
今日の閉園時間が突然1時間早まったのは…オヂサン達のせいだったんだよぉぉぉう!! 

しかし…この時の懺悔は、まだほんの序の口にすぎない事を、私はこの僅か十数分後に知るのである!!

人の流れのまま、導かれた先は…これまた数時間前に来訪した『イルカショー会場』。
いやいや…このショーの『微妙さ』は既に承知しておりますから…アッシはもうお腹イッパイでごぜえやす…。
そんな思いを胸に会場へ入ると…そこには全く意外な光景が広がっていた!!

統率のとれた隊列で上半身を水上に突出し、観客を迎えるイルカのチーム×2!! 
一糸乱れぬフォーメーション遊泳&同時跳躍!! 
そして、エース格のイルカの高々としたジャンプ&ジャンプ!!

大いに盛り上がる会場の声援を、どこか遠くで鳴り響いているような感覚で聞き流す私は、その時理解したのである…。

さっきの微妙なショーは…このイベントの為に…スタミナ温存したものであったのだという事を…。

大歓声が轟き、興奮冷めやらぬ中、ステージ中央にダーバン市観光局の女性責任者が満面の微笑を湛えて登壇し告げる…。

『ダーバンはビジネスだけではありません!! 
 エンタメもこのように素晴らしいのです!! 
 是非次回は、プライベートでのお越しを!!』

そして私は…俯き加減に懺悔の表情を湛え、心中苦々しく呟くのであった…。

『チビッコ達よ…これがオトナの事情だ!!』


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