タンポポ見団子

春の始まりによくある強風が過ぎて、
穏やかになった頃、やっと桜が咲いた。

例年、咲いた端から風で散っていたものだ。
そんな中で珍しいことに、まだほとんど散っていない。

上を見れば、きれいに咲いた桜が見える。
なのに下を見ても、ほとんど花びらが落ちていなかった。
代わりに、地面ではタンポポの黄色い花がよく目立つ。

そういえば。
「春一番なら、もう行っちゃったよ。」
桜を見上げながら、思い出したことを口に出す。

「そうか。まあ、たまにはいいだろう。」
桜は、意外とそっけない。
「なんだ。気に食わないことでもあったか。」
「咲いてすぐ散るのに飽きたんだ。」

「風が吹いたら困るのか?」と、
タンポポがこっちを見上げて言う。
「困るってほどじゃないけど、何日か待ってほしいな。」
「ならいいや。どっちみち、もうしばらく後だ。」

なんのことかとタンポポに聞いてみれば、
「綿毛を飛ばしてもらうんだよ。」とのことだった。
まだ黄色く咲いているのだから、
たしかに、綿毛になるのはしばらく後だろう。

そうして風が吹けば、桜も散ってしまうだろうけど。
「放っておいてもどっちみち散るんだ。待ってくれるだけ有難い。」
桜もそう言うから、それで良いのだろう。

たぶん、タンポポも毎年ここに咲いてるんだろうな。
いつも桜のほうばっかり見てて気づかなかった。
桜を見上げながら食べようと思って団子を買ってきたけど、
たまには下を向いて食べるのもいいか。

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