ショートショート 小さな恋

*はじめに
このショートショートはフィクションです。

僕は小さなころから病弱だった。

いつも病院に入院していて、家にいるよりも
病院にいる方が長いくらいだった。

そんな僕も、思春期を迎えた。

学校の勉強は遅れがちで、ときどき学校の
友だちが僕の病室に来てくれたけど、
僕の寂しさは紛れない。

ある日、僕は病室のベットに横になり、
窓の外の景色を眺めていた。

窓の外は小さなころから見慣れた
景色だけど、大きなポプラの木があって、
その木を眺めているのが好きだった。

いつもの通り、ポプラの木を眺めていると、
僕のベッドのそばに一人の女の子が来て、

「きれいなポプラね。」

と話しかけてくる。

見ると、淡いピンク色のパジャマを着た
僕と同じくらいの年の女の子だ。

「はじめまして、わたしリコっていうの。」

「僕はアオ。よろしく。」

それが僕たちの出会いだった。

それから、いろいろ話していくうちに、
リコのことが少しずつ分かってきた。

病気になって長いこと。

あちこちの病院を転々としていること。

この病院は先週来たばかりだということ。

僕のことは看護師さんから聞いたこと。

僕たちは、同じような境遇からか、
お互いに惹かれ合うようになり、
いつも一緒にいるようになった。

僕はリコが好きになるにつれて、
灰色だった景色には、
いろんな色があることを知る。

僕はリコが大好きで、リコなしの世界
なんて考えられなくなったころ、

リコの両親が僕のところに挨拶に来て、
また転院するという。
リコを見ると、悲しそうな顔をしていた。

僕はリコと二人になりたいといい、
二人だけで話をした。

「なぜ転院なの?大分良くなってきた
っていっていたのに。」

「うん。でもお母さまがこの病院は良くない
っておっしゃるの。もっと良い病院に
行きましょうって。わたしは反対したの。
アオとせっかく仲良くなったのに。
なぜなの?って聞いたの。
そしたら、そのアオがいけないって。
あの子と一緒にいない方がいいって。」

「なぜ?」

「あの子はとても重い病気だから、
あまり仲良くなると、
後で辛い思いをするからって。」

「リコ。それは本当のことだ。リコにも話したよね。
でも僕はリコが大好きなんだ。
リコが僕の生きがいなんだ。」

「分かってる。わたしもアオが大好き。
離れたくない。
わたしをどこかに連れて行って欲しい。
ふたりでどこか遠くに逃げ出したい。
でも、それも出来ないから。。。

わたし、アオと最後にキスがしたい。
お願い。」

「でも、、、」

「お願い。アオ。」

僕は生まれて初めてキスをした。

微笑みながらリコはいう。

「わたし、ずっと、あなたを待ってる。」

リコのことは、あの日から忘れたことはない。
でも、リコがどこへ行ったのか、どうなったのかは
誰も教えてくれなかった。

僕はどうしてもリコに会いたくて、
生きることに意味を見つけてから
少しずつ病気が良くなっていった。

僕は成長して幸いにも病気もよくなり、
学校で学び直して、小さな会社で働いている。

子どものころに入院してた病院に行って
リコがどこにいるのか聞いてみたけど、
教えられないという。まあそうだろう。

僕はときどき、病院のポプラの木を見に行く。
そうすればリコに会える気がして。

リコと初めて会った時に二人で見たポプラの木は
今もあのときのままだ。

今日も、じっとポプラの木を眺めていると、

「きれいなポプラね。」

という声が聞こえる。
僕は振り向く。

そこには看護師姿になったリコがいた。

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