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土佐光起の技

東京国立博物館(トーハク)では、12月3日までの会期で特別展『やまと絵-受け継がれる王朝の美-』が開催されていますが、同展の関連展示『近世のやまと絵-王朝美の伝統と継承-』が、本館(日本館)2階の3つの部屋で展開されています。特別展が主に平安〜安土桃山時代の作品が展示されているのに対して、本館の特集では安土桃山以降……江戸時代の作品を中心に見られます。

そんな中に、土佐派の中興とも言われる土佐光起みつおきの作品が、特集前期に続いて後期でも選ばれていました。今回も背が低くて横に長〜〜〜い、八曲一双の《粟穂鶉あわほうずら図屏風》です。粟の穂の間に遊ぶ、鳥の鶉が所々に描かれています。ちなみに粟穂鶉あわほうずらは、古典的な画題で、絵にとどまらず彫刻などでも見られるようです……わたしは見たことありませんでした。

日本生物工学会の研究員・都築政起さんは「うずらは、室町時代に武士によって家禽化されたと考えられています。小さな体に似合わず、雄の鳴き声が勇壮であったため、それが好まれ家禽化の端緒になったと考えられています」と、『研究家の片隅で生き物への愛を語る』で説明してくれています。

右隻うせきの右端のほうから見ていくと、ところどころに様々な うずらが見られます。うずらだけではなく多彩な季節の植物が描かれている点も「やまと絵」の特徴といえるでしょう。俳句に季語が欠かせないように、絵画にも季節を表しやすい植物は欠かせません。

上は、桔梗ききょうとうずらですね。

いよいよ「粟穂鶉あわほうずら」が描かれています。滑空する うずら……って、うずらって飛ぶんですね……。記憶を辿っても、うずらを見たことがあったかなぁ? という感じです。動物園でも見かけた記憶がありません。

そう言えば「粟穂あわほ」だって見たことがないです。あるのかもしれませんが「これが粟穂あわほなのか」と認識したことがありません。もっと言えばあわだって、食べたことがないような……あったかなぁ……。

それにしても粟穂あわほって、こんな形をしているんですね。言われてみれば、絵に描かれている粟穂あわほは見たことがあったと思います。「このトウモロコシみたいなのは何だろう?」と思っていたのが「粟穂あわほ」だったんだなぁと。

描かれた粟穂あわほを拡大してみると、さすが土佐派……さすが土佐光起みつおきという感じの緻密さで穂の一粒一粒まで描き込まれています。

うずらも、羽が細かく描かれているし、「なんでこんなにフワッフワな感じに描けるんだろう?」って思ってよく見ると、輪郭線がない……と言える? ……細かく描かれた一つ一つの羽根でうずらをかたどっているから、輪郭がフワァっとしているような気がします。

上は、すすきでしょうかね? こちらもフワァ〜っとした感じがよく表現されています。点描画のように……だけれど少し離れれば点描だとは分からない……そんなふうに描かれています。風にゆらゆらとしているのが、たやすく想像できてしまうところがゴイスーです。

屏風の上部には、金箔で霞む山並みが目立たず描かれているのですが、自然の山をそのまま見ているような……墨の濃淡だけで描かれているのに、さらに霞には金箔を使っているというのに、うずらなどと同じように、とても写実的な気がします。

以下は繰り返しになるので写真のみを御覧ください。

土佐派……特に土佐光起は大好きです。パッと見た感じは地味なのに……制作当時はきらびやかだったかもですが……実際に存在していた空間を、空気感とか匂いなどまでを一緒に屏風などに描き込んでいる気がします。そんな風に思えるのは、わたしが歳をとったからかもしれませんけどねw 展示室では、そんなに人気ではありませんので、好きなだけじっくり見られますよ。

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