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金太郎も活躍する酒呑童子の物語って知っていますか? @東京国立博物館

東京国立博物館(トーハク)に、この時期に行くと展示されているのが、金太郎(坂田金時)などの部下を引き連れた源頼光が、酒呑しゅてん童子どうじという呑んだくれの鬼を退治しにいく物語が描かれた、「酒吞童子図」です。

トーハクには、いったいいくつの「酒吞童子図」が所蔵または寄託されているのか分かりませんが、今年の《酒呑童子図扇面》も、初見のような気がします。

《酒呑童子図扇面》とは、前述した鬼退治の物語を、扇面……扇の形に切り抜いた紙に描いていった作品です。なぜ扇? とも思いますが、描かれた……今回の場合は室町〜安土桃山時代にかけては、扇が身近な生活必需品だったからなのでしょう。日本に限らず中国でも(むしろ中国から伝わったのでしょうし)、酒吞童子に限らず、様々な画題が扇面に記されています。

■室町〜安土桃山時代に描かれた《酒呑童子図扇面》

展示されている《酒呑童子図扇面》は、室町〜安土桃山時代に描かれた、個人蔵の作品です。12面が展示され……全部で何面あるのか分かりませんが……現在展示されているのは「物語の最後の場面」なのだそうです。

《酒呑童子図扇面》室町~安土桃山時代・16~17世紀|紙本着色・個人蔵

源頼光……「よりみつ」または「らいこう」……たちが鎧櫃から甲冑を取り出して着込んだり、弓矢を用意したりと、酒呑童子のアジト襲撃の準備をしています。

準備が終わった次の扇面↓では、いきなり酒吞童子の屋敷前……というか解説には「寝室の鉄の門」の前に、源頼光らが押しかけている場面です。

扇面の左側が、酒吞童子の寝室の鉄の門。なかなか開かなかったためなのか、固く閉ざされた門を「八幡、住吉、熊野の三神の力で開ける」としています。↓ わたしには分かりませんが、門を押したりしているのが、三神です。けっこう中国風な感じですね。

三神と一緒に、源頼光らも一緒に門を押しています。ここで気がついたのですが、兜をかぶっているのは1人だけです。この赤糸威し(おどし)の甲冑を着ているのが、源頼光ということになるのでしょう。

その頃、屋敷……寝室の中にいる酒吞童子たちは、源頼光らの襲来に気がついていないようすです。次の扇面↓では、酒吞童子が女性たちをはべらせて、酔っ払って楽しんでいるようすが描かれています。

こんなこと書くと怒られるかもしれませんが、女性たちの表情を見ると、囚われているという感じもなく、酒吞童子ときゃぁきゃぁ楽しんでいるような気もします。それにしても酒吞童子がデカい! そして鬼の角がはっきりと描かれていますね。鬼に角が生えているのは、いつ頃からなのか、少し気になりましたが……ここは脱線せずに先に進みます。

この扇面……最後の場面だけで12面もあるのに、展開がむちゃくちゃ早いです。次の扇面↓では、源頼光らが討ち入っていて、源頼光が酒吞童子の首を切り落としたあとです。

落とした首が吹っ飛んで↑、源頼光の兜へ「がぶぅ〜」と食らいついています↓。いわゆる異時同図法というので、描かれていますね。

酒吞童子の仲間たちはどうしているんだ!? と思っていたら、次の扇面↓では、酒吞童子の四天王=部下たちが、源頼光らに追いやられています。

斬り付けられている四天王……。部下だけあって、酒吞童子に比べると、体が小さいですね。それでも顔はものすごくデカく、グロテスクに描かれています。そして源頼光の部下たちによって、なんなく倒されているようですが……鬼ってけっこう弱いのか? それとも坂田金時たちが強すぎるのか……昨今のアニメのように、主人公が一時期は死にそうになりながら最後に敵を倒す! みたいな感じではなく……けっこうあっさりと鬼がやられてしまっています。

そして次の扇面↓では、酒呑童子の首に噛みつかれていた源頼光が、酒呑童子の配下の赤鬼……金熊童子を生け捕りにしています。源頼光?の兜をよく見ると、酒呑童子に噛み切られたのか、兜の後ろの首を守る錣(しころ)がなくなり、吹き返しも取れてしまったのか、兜鉢(かぶとばち)だけになっていますね。

金熊童子だけでなく石熊童子も生け捕られています↓。こちらは3人がかりで組み敷かれて、鬼の後ろ手を縄で縛っています。石熊童子の顔は真っ青……ではなく真っ白……ちょっと毘沙門天などに踏んづけられている邪鬼に似た感じですね。

次の扇面↓では、さらに屋敷で、鬼たちを叩きのめしている様子も描かれています。源頼光の配下の1人が、なんだか物凄い槍というか鉾というか、ギザギザの両刃の武器を、ぶん回していますね。この武器は鬼たちからぶんどったのでしょうか。

扇面の左側では、また屋敷に戻ってきたのか、源頼光が天下五剣に数えられる太刀「童子切安綱」を鬼の額に打ち込んでいます。源頼光の表情をよく見ると、少し笑みさえ浮かべている感じがしますね。じょじょに鬼退治に慣れてきたのでしょうか。

さらに次の扇面↑では、大門の外に出てきた鬼たちと対峙します。けっこうな鬼の量ですね……ただし、もう鬼たちがそんなに強くないと分かってきたからか、源頼光たちは勇んで鬼たちに向かっていきます↓。

ということで鬼退治が一段落……。次の扇面↑↓では、鬼たちに捕らえられていた女房たちを助けています。女房たち……と言っても別に源頼光の妻たちというわけではなく、女性たち……というくらいの意味でしょう。助けられて泣いて喜んでいるようです。

女性の1人が、血を流しながら源頼光の足元で倒れていますね……。女性に化けた鬼を斬り殺したのか、それとも鬼退治の最中に犠牲となってしまった女性なのでしょうか……。この女性について、解説では触れられていません。

ということで、助けた女性たちを連れて都に帰っていきます↑↓。生け捕りにした鬼たちも、その場で斬首して、首だけを担いで帰るようです。

なんとなくですが、女性たちの表情を見ると、安堵の色を浮かべているようにも見られず……これから私たちはどうなるのでしょう?……といった、不安げな感じがしますけれど……もちろんそれは気のせいでしょう。

そして次の扇面↓では、甲冑を脱いだ源頼光らが都大路を進む様子が描かれています。鬼を退治してきたぞぉ〜! 女性たちを助けて来たぞぉ〜! といった感じの凱旋ですね。

この扇面の解説には「都大路を堂々と行進する頼光たちの一行」と記されているのですが……建物も人影もなく、都大路っぽさがまったくないのが気がかりです。堂々と凱旋しているものの、都の人たちからは歓迎されていないんですよね。

おそらく……おそらく……なのですが、下の写真の左から二人目……少し奥にいる草色の着物なのが坂田金時=金太郎です。戦闘中にどんな格好だったのか分かりませんが……せめて源頼光と坂田金時の2人は、絵の中にどう描かれているのか解説してもらいたいですね。。。

ということで、《酒呑童子図扇面》はここまでです。一部の金箔?などは剥落してしまっていますが、かなりきれいな状態でした。いつか物語の前半部が展示されることもあるかもしれません。楽しみに待ちたちと思います。

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