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紫式部と越の白雪

まっすぐに立って、顔を上げて遠くを見ている紫式部。しかも金色。 福井県越前市(前・武生市)の紫式部公園に立つこの像は、平安時代の女性としては初めての立像だという。絵巻物などで見る平安時代の女性は、十二単に身を包み、顔を隠すようにして座っている。そういう常識的なイメージからすると、この紫式部像は、はなはだ特異なものといえるだろう。 台座には2枚のレリーフがある。向かって右には父に付いて武生に向かうときの様子、左には藤原道長に歌を所望される全盛期の姿が描かれている。つまりこの像

    • 歌占の滝

       全国の白山神社の総本社である白山比咩神社のほど近く、国道157号線沿いに「歌占の滝」がある。気を付けていなければ目にとまらないほどの小さな滝だが、室町時代にここを舞台として、謡曲「歌占」が生まれたのである。  能を大成した世阿弥には元雅という嫡男があったが、父を超える才を持つと言われながら父より先にこの世を去った。現在上演される元雅作の能は四曲あり、そのうちの一つが「歌占」だ。  「雪三越路の白山は……」で始まる謡曲では、伊勢の神職が白山麓で歌占いをする様子が語られる。その

      • 黒壁山 取材記録

         金沢出身の文豪・泉鏡花の作品に『黒壁』という短編がある。数多くの怪異や幻想譚を書き上げた鏡花が「加賀国随一の幽寂界、黒壁」と表現した物語の舞台は、金沢市の郊外、三小牛(みつこうじ)町にある黒壁山(くろかべざん)である。  江戸時代に書かれた『三州奇談』や『亀の尾の記』にも「魔魅の住む所」「魔所なり」と記されている。また昭和十二年発行の『加賀志徴』には「国祖公、金沢の御城を今の如く築き給ひしころ、御本丸の地は当国にての魔所なりしが、此黒壁山の所へ移るべきよし命有て、それより今

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