【広告本読書録:003】ひとつ上のプレゼン。
眞木準編 インプレスジャパン発行
突然ですが、あなたはプレゼン得意ですか?ぼくは苦手です。正確に言えば苦手でした、です。最近は得意かと言われると「苦手ではないです」と答えられるぐらいにはなりました。好きか嫌いかで区分けすると、嫌いではない。そりゃあそうでしょう。ぼくは齢50歳を超えた立派な初期高齢者です。最近すっかり人の名前が出てこなくなった。スーパーの駐車場にまっすぐ停めにくくなってる。なんなら電車で席をゆずってほしい。新卒社員との年齢差が30に近づいていて実際に彼ら彼女らのお父さんより年上だったりする。そんなナリして「プレゼンがぁ…できなくてぇ」とか言ってらんないッス。
でも以前は苦手でしたよ。プレゼン前になるとトイレ近くなるわ、えずくわ、もう大変。プレゼンだけでなく大人数の前で話すような場合にも同じような症状が。「それはつまり自意識過剰ですね」と冷酷に診断してくれる人もいましたが、それでもアガるもんはアガる。
じゃあ何がきっかけでなんとなくできるようになったのか、といいますと。やはり上手い人のマネをする、ということに尽きます。べしゃり上手な人の話しかた、雰囲気の作りかた、場の盛り上げかたなどなど。自分にないものを身につけるわけですから、外からもってこないといけないんです。
幸い、僕の場合は以前勤めていた会社の連中が全員「きそばAT」かってぐらい、べしゃり上手な関西人で固められていたんです。会長も上手ければ社長も上手い、役員もみな上手い。31歳から44歳まで13年過ごした会社の出自が関西だったことが功を奏したんですね。でも、みんながみんなそんな環境なわけないですよね。そういうときは、どうするか。本に頼りましょう。
今回ご紹介する広告本は、そんなプレゼンの参考書みたいなものです。
名だたるクリエイター19名のインタビューから構成された、プレゼンテーション技術の書。編集はダジャレならぬお洒落コピーの雄、眞木準さんです。
ぼくがこの本を手にとった理由は、錚々たるメンバーが手の内をあかしているから。特に岩崎俊一さん、大貫卓也さん、児島令子さん、佐々木宏さん、副田高行さん、中島信也さんあたりの手法は喉から手がでるほど欲しい。
で、読んでみたんです。するとあるわあるわ。プレゼンのヒント。ちょっと気になったところだけでも引用してみますね。
「プレゼンの相手はあくまでも生の人間です。デジタル社会の現代だからこそ、そのことを忘れず、日々の人とのかかわり合いを大切にすべきだとぼくは思います。」中島信也
「つまり「私があなたにプレゼンする」ということではなくて、「一緒に広告のアイデアを考えましょう」という姿勢でのぞんだほうが、という話です。」佐々木宏
「できないことを無理してやろうなどと考えてはいけない。ここが第一のポイントですが、要は自分らしさで戦うということです。得意なやり方で攻めるということです。」岩崎俊一
その他にも「すべてはコミュニケーション(大貫卓也)」「ちゃんと熱意を伝えられるか(副田高行)」など、プレゼンを超絶エンターテインメントでウルトラショーアップしてクライアントをびっくりさせる場だ、みたいに捉えていた人(ぼくのことですが)にとっては頭頂部を鈍器で殴られるみたいな気付きが連発です。
プレゼンの達人たちはみんな、口を揃えておなじことをいいます。それは…
「競合プレゼンはよくない」(そうだそうだ)
「すごい資料はいらない」(そうなのね)
「派手な仕掛けもいらない」(そうだったんですね)
ということで、ホッと胸をなでおろす金言の数々なのです。これ、プレゼン苦手な人にとってはホント安心材料でしかない。
逆をいえば、競合プレなんかで仕事を獲りたいあまりに、無理なことをしたり、その場を取り繕ったり、過剰に阿ったりする必要はない。そんなことをしても後々いいことはない。それよりも、クライアントというか、広告する商品への愛や課題を解決するぞという本物の熱意が問われるという。
どっちかっていうと、そっちの、本質的なことのほうが難しいっちゃ難しいんですけどね。ま、世の中に容易い仕事ナシ。楽して稼ぐなんてのは所詮長続きしないわけですから、プレゼンの勝った負けたに一喜一憂するでなく、腰の座った本物の仕事を心がけていくのが、結局は王道なんですね。
では最後に、ぼくがいちばん尊敬するコピーライター、岩崎俊一さんのプレゼンに対する身の処し方を引用してむすびます。
「最善を尽くす」→「勝てば一杯飲む」→「負ければなかったことにする」
かの岩崎さんでも負けることがあるんですね。そしてなかったことにする、と。なるほど。じゃぼく、こないだのコンペ、プレゼンまでしておきながらその後そもそもの案件がなくなった、という事件があったのですが、なかったことにします。そして一杯ではなくいっぱい飲むことにします。乾杯。
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