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新卒採用と中途採用における広告表現の違い

ひさびさに採用コミュニケーションの話をします。1月ですし。

わたしは長らく中途採用の分野で広告を作ってきました。ところがこの5年ぐらい、お仕事の依頼の比率が新卒採用に移ってきました。

そのことに何か意味があるのかどうかはわかりません。

ただ、仕事のステージが変わってことでわかったことがあります。いや、わかっていたけど実践を通じてより確かになったことと言ったほうが正しいかもしれません。

今日は広告づくりというか、ワーディングというか、とにかく採用における言葉のコミュニケーションにおける新卒採用と中途採用の違いを整理してみます。

そんなんわかってるよという方はここまで。
そんなんどうでもいいわという方もここまで。

では進めます。


ざっくり結論を言うと、

新卒採用はキャンペーン広告
中途採用はスポット広告

ということになります。

もうひとつ付け加えると

新卒採用はマス広告に近い
中途採用はダイレクトマーケティングに近い

ということも言えるでしょう。

この比較を目にして「そういうことか!」と膝を打ったあなたは、ここまで。「言ってることの意味がひとつもわからない」というあなたも、ここまで。

では進めます。


現在の日本の新卒採用は企業にとって年に一度の一大イベントです。学生側からしても一生に一度の“新卒チケット”を行使する大チャンスです。

中期経営計画をはじめとする事業計画に則って行われる採用ですし、失敗すればその企業の3年後、5年後の活力が奪われかねません。組織の少子高齢化は避けたいのが企業の本音。

それだけに一年をかけて説明会、エントリー受付、書類および面接選考、内定出し、内定者フォロー、入社といくつものステップを踏んで進められます。

この長丁場をひとつの横串で貫く役割を果たすのが、新卒採用における採用コンセプトであり、採用メッセージになります。

ゆえに「長持ちする」こと、つまり時間の経過に耐えうる言葉が求められます。同時にどこから突っ込まれてもブレない強さも必要です。その上で学生からの興味、関心、支持を集めるものでなければなりません。

We create “WOW” for the world!
(LINE)
世界中に、使命がある。
(東京海上日動)
世界が求める 現実をつくる。
(豊田通商)
“ツナグ” 過去と未来 人とビジネス 人と人
(USEN)
超える相手は、世界にいる。
(NTTデータ)
電通がつくるのは、前例のない未来だ。
(電通)
『成長』が全てを笑顔に
(GMOインターネット)
世界に価値ある未来をつくる。その中核はあなた。
(レバレジーズ)

ネットから拾ってきたものなので年次などはバラバラですが、まあ、だいたいこんな感じですね。フレーズの特徴としてはスケールが大きくなりがちなところ。

経営陣からすればチマチマまとまる若手はいらん、でっかい話をしようじゃないか、といいたいのでしょうが、それゆえに手垢のついた単語が羅列されてしまう羽目に。

「世界」「未来」「笑顔」「成長」このあたりのワードは一歩間違えると採用ポエムと揶揄されるフレーズにつながりかねません。

最近ではその現象をさけるべく、英語に走るケースも目立ちます。英語を使えばそれなりに字面が良くなりますしグローバル感もさりげなく演出できます。また、弊社はこの程度の英語はスラスラいける人材を求めているのだよ、というフィルターの機能も期待できます。

ただ伝達力の面ではどうでしょうか。パーパスやミッション、ビジョンに英語を使うのはありだと思うのですが…キャッチフレーズに求められる機能を考えるとおすすめできません。

ですがまあ、このあたりに着地するのはやむを得ないといってもいいでしょう。なんといっても一年間を通して採用サイト、ナビサイト、合同説明会のブースなどあちこちで目にすることになるわけですから。一般広告でいうところの年間キャンペーンと同じ位置付けです。

そして対象となる人物が曖昧になりがちでもあります。求めるスキルやキャリアがなく、タイプと大学名での採用となるからです。

そういう意味からマス広告に近い、と言えるのですね。


一方で中途採用は、往々にして突発的になりがちです。代表的なものが欠員募集。必要なときに必要なスキルの人材を必要なだけ採用する、というケースが多いです。

ですからその時の採用ターゲットにあわせたピンポイントの広告コミュニケーションが求められます。新卒採用に比べるとかなり訴求点が絞られ、また具体的になりがち。ハッキリ言って募集主と採用ターゲット以外には通じないフレーズで良かったりします。

マスコミ浪人よ、来たれ!
(経済界)
サラリーマンという仕事はありません。
(西武セゾングループ)
偽物をつくり続ける誇り。
(アツザワ・プロテーゼ)
ファンのままのが、楽ちんですよ。
ジャイアント馬場

(全日本プロレス)
クルマは好きですが、売りたいほどではありません。
(ニッポンレンタカー)
今日を、考える日曜日にしてしまうかもしれませんが…
(オリエント・リース)
この名刺に、あなたの名前を入れてみませんか。
(京セラ)

かなり古い資料からピックアップしていますが全然いまでも通用します。むしろ現在の求人広告サイトに並ぶおざなり定型フレーズに比べるとイキイキとしているように見えるのはわたしだけでしょうか。

中途採用は「営業職・第二新卒」の募集を除けばほとんどの場合、何らかのスキルやキャリアを求めます。ここは新卒と違ってものすごく明確です。さらに求める能力やポジションにあわせた給与額の提示があり、当然、年齢による判断も加わります。

中途採用の求人広告は必要な時に掲載されるという点がスポット広告っぽいですね。そしてターゲットがしっかりと絞られるところは広告というよりもダイレクトマーケティングの手法が適しているのです。

その会社で働くことでどんな利益が得られるのか。果たしてそれはターゲット人材が求めているものか。ここの折り合いを検証した上で、求職者に伝わりやすく言葉を磨き上げるのが、中途採用のコミュニケーションなのですね。


新卒採用は「夢」を語れ、中途採用は「人生」を語れ、というのは求人広告制作者にとっての一丁目一番地(笑)なのですが、それには今回ご説明した背景があるというわけです。

ちなみにおもしろい現象なんですが、新卒「夢」で中途「人生」なんですが、中途も高年齢層の募集になるとふたたび「夢」訴求が効いてくるんですよ。もちろんある程度ステータスのある募集に限られるのですが…

夢や大志を抱いて社会に出て、辛酸を嘗めて経験を積んで、キャリアのゴールが見えてくるとふたたび夢を見るようになる。そう考えるとワークライフバランスの追求も大切ですがある局面においてはやや仕事に傾く生き方も悪くないと思いますが、いかがでしょうか。

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