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嫌いじゃないわ。《鉄矢》

 タイトルではインパクトと親しみやすさを優先して呼び捨てで表記してしまったが今回、ここに書くのは俳優の武田鉄矢さんについてである。

 この人も好き嫌いが分かれる。もちろん、プライベートは知り得ないので、俳優やコメンテイターや、バラエティのお仕事についての感想だ。

 「あんまり好きじゃない。」とか、私の周りではハッキリと嫌い、という人までいる。主だって『金八先生』のキャラに準ずる。この先生、生徒に寄り添う、と言えば聞こえは良いが、暑苦しい接し方をする人でもある。そのため、この「寄り添い」がハマれば魂まで救ってくれる恩師だが、その分、少しでも的を外れれば、ただの考えの押し付けにしかならない、というギャンブルな面を持ち合わせている。
また「自分の人生は自分で選びたい。」という人や、悩みがあっても自分で答えを出したい、という人にも嫌われそうなキャラ。

 もう一つ、熱烈な坂本竜馬ファンであることも知られている。その熱狂ぶりに、坂本竜馬役を演じることに決まった役者さんが、なぜか武田鉄矢さんの所に「坂本竜馬をやることになりました。」とご挨拶に行く、という話を聞いたこともある(ホントなのかな?)。
 だとしたら、ちょっと鬱陶しくて、嫌になっちゃうんだろうなぁ、と思う。

 以上の情報から、情熱的なキャラにはありがちな、熱量が裏目が出がちな人、というのが私の今のところの武田鉄矢さんの見解だ。

 そんな中、「嫌いじゃないわ。」と思ったきっかけはラジオ。文化放送でやっている『今朝の三枚おろし』が好きだからだ。
 その中でももちろん、聴いていて(ええ?そうかな?)って思うトークもある。

 例えば「トランプ元大統領の最愛の息子は、高級だけど、高いビルの最上階で独りで暮らしている」という話を取り上げたことがあった。
 言葉を一言一句、正確に覚えているわけじゃないけど、その時の鉄矢さんの所感は「まだ幼いのにどんなにいい住まいでも、そんな所に一人ぼっちじゃ、友だちもできないんじゃないか。寂しい子どもになっちゃうんじゃないか。」という主旨のものだった。さらに「俺はそういうの、嫌だなぁ。」と継いだ。

 そんな風に人を評価する人の気持ちも判らなくもない。一人ぼっちじゃ育たない感情や、人とのコミュニケーション能力があるのも本当だと思うから。
けれど、これとよく似たコメントをする人の中には「じゃあ、あなたがその人の、最初の友だちになってあげたらいいのに。」と言えば、とたんに尻込みをする人も結構いる。要は友だちのいないその相手を助けようとは思っていない。下手をしたら、自分はそんな寂しくて、人間的に貧しい人間ではない、と言いたいだけなんじゃないかって、疑いたくなる人さえいる。
この時の武田さんの話ぶりにはそれと同じ響きを感じた。
なんかヤだなぁ、と、その時には思った。

 けれどこの人の、読書が主体の情報のインプット量と、それに関する考察は相変わらず深く、本質に肉迫する鋭さを失わない。
 虫の頭脳を乗っ取り、その虫に自分の子どもを育てさせ、守らせる、さらに小さな虫の話。
 オオカミの研究を極めようとするあまり、自分も服や靴を捨て、オオカミの群れの中での生活を試みる男の話。
 人気の森博嗣の剣劇小説『ヴォイド・シェイパ』も「どこの国なのか、どんな世界なのか、実は全くはっきり表されていない、抽象的な小説」という、思いもかけない発想から読み解かれる。

 多分、普通に書店に行ったら、背表紙の上を目線が滑るだけで、決して手に取らないであろう本を取り上げ、紐解いていく。武田さんの紹介してくれた本で興味を持てたものは、まずは図書館で借りて読むと、なるほど、面白くて結局、購入してずーっと本棚に鎮座ましますことになる。
 それほどに、この人の目を通して語られる、本や物事への見識は奥深く、決して的外れなものばかりではない。それどころかまだまだ自分はキチンと物事に向き合っていないな、と正されることもしばしばだ。

 少し前に同じ苗字のよしみで武田砂鉄さんに声をかけたが断られたらしい。ーーーのだが、そんなとこも含めて武田鉄矢さん、嫌いじゃないわ、と思うのである。


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