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ひんやりとした空気を思い起こしながら、旨い酒が進む

数量限定の〈兵庫湊川隧道貯蔵酒・隧 ZUI〉を手に入れた。
醸造の後、湊川隧道(ずいどう=トンネル)で半年間貯蔵された酒だ。

兵庫湊川隧道貯蔵酒・隧 ZUI

湊川隧道とは、神戸の中心を流れていた湊川を、明治34年、別の流路に付け替える時に掘った日本初の近代河川トンネルだ。
全長600m、幅7.3m、高さ7.6mは完成当時、世界最大を誇った。
暴れ川を1本通すためには、それほどの規模が必要だったのだ。

おかげで川の氾濫もなくなり、神戸の街は大いに発展したという。
旧川の跡に開かれた街が、「東の浅草、西の――」で名高い新開地だ。

これで全神戸、まだまだ狭い(明治30年)

ところが平成7年の震災で隧道の一部が崩れたため、隣りに新湊川トンネルを建設、この湊川隧道はその役目を終えた。
今は近代土木遺産として保存され、月1回の公開のほか、隧道内でミニコンサートが開かれたりしている。

先月、その公開日に行ってみた。
中は洞窟のようにひんやり。

隧道入口

見学しやすいよう中央が舗装されているが、それ以外は明治時代のままだ。
写真で見ると小さいが、その場に立つとかなり高く、これをツルハシなどで手掘りしたという先人の遺業に、えもいわれぬ感動が押し寄せる。

奥へ進むと見学路は途中で終わり、引き返さなければならない。
そこから先は未舗装で、河川トンネルとして機能していた往時のままだ。

未舗装の本来の隧道

年に一度、土木の日(11/18)だけは、この未舗装区間を歩いて出口まで通り抜けることができるらしい。
余談だが、土木の日が11/18なのは、「土」=十と一、「木」=十と八と読めることにちなむ。

年間を通じて温度の安定したこの隧道で寝かせたのが、清酒〈隧 ZUI〉だ。
舌触りがやわらかくなり、うまみが増すという。
隧道に初めて行ってみた翌月に販売開始だなんて、ちょっぴり何かを感じ、探して買ってみた。

灘五郷の酒蔵〈福寿〉製。
福寿といえば、毎年スウェーデンで開かれるノーベル賞の晩餐会で、日本から唯一選ばれている銘柄だ。
おいしくないわけがない。

***

せっかくだからアテを用意しよう。
スーパーでコロンと太ったアジに遭遇、これだ!

先日は握ったが、清酒に合わせるなら刺身。

鮮度抜群、プリプリだ。
中落ちも盛った。

ほんのり黄色の、角の取れたまろやかな味わいは、貯蔵酒ならでは。
酒と魚――これ以上のマリアージュがあろうか、いやない。

明治の記憶を帯びた隧道。
そのひんやりとした空気を思い起こしながら、旨い酒が進む。

わずか1時間ほど前にトンカツを揚げ、サクサク楽しんだところだったので、ちょっとお腹いっぱいだけど。

(2022/11/5記)

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