『継続は力なり』という諺は誰もが聞いたことがあるだろうし、それを座右の銘にしている人も少なくないと思う。それはとても大切なことだと思うし、現に多くの秀才や偉人と呼ばれる人は、弛まぬ努力の上に功を成してきたんだと思う。
　斯く言うぼくも『継続は力なり』という言葉を座右の銘の一つにしている。そこで気づくことは、不断の努力は一見シンプルに見えて、これを成すのは本当に難しいということだ。「今日はここまで論文を書こう」と起きた時は思っていても、ふとした拍子に煩悩や横槍が入ってきて、寝る頃には思い通りに進まなかった、なんてことはザラにある。思いや考えを持続させて、その通りに実行することは中々難しい。(それともぼくの心がTOFU heartなのだろうか…。)

　『思いや考えの持続』を別の視点で捉えると、良い様に解釈することもできる。向上心や大志というのがそれだ。現状の自分に満足しない。少しでも自分の理想に近づこうと、ハングリー精神を忘れない。これは”人間性”を構成する重要な要素と予てより考えられ、ニーチェもこのように思う人を”超人”として称揚した。なるほど善き人と評される人は凡そ、各々の人生に車軸を立て、思いや考えを持続させて行動に移してきた人なのだろう。

　今度は『思いや考えの持続』を、資本主義社会と照らし合わせて考えてみる。現在の資本主義が本格的に始まったのは産業革命以降である。労働者と雇用者の間に絶対的な権力勾配が生じ、雇用者は労働者を低賃金で扱き倒し、資本を拡げていった。このように無尽蔵に資本を増産させた結果、現在の多くの人々は地域社会のコミュニティから搾取・疎外されて他者との有機的な紐帯を失い、あるいは他律的となり、物質的にも精神的にも脆弱な環境の中で暮らすことになった。生活の安定性という面では、一昔前の、時に窮屈な思いをしながらも、いざとなれば頼れる人が身近にいた社会のほうが優れていたんじゃないかなと思う。

　但しこのような、旧来の繋がりは一朝一夕で得たものではない。それは長い歴史の中で、地域の人々が緩急宜しきを得るために、結束への不断の努力をして持続させ続けてきた繋がりである。その意味で、地域の繋がりは民主的であり、自律的なのである。だから少しでもこれを蔑することになれば、それはすぐに効力を失い、相乗的にはたらきを失っていく。現代の人々が抱える孤独感や、もはや制禦しがたい資本の肥大化は、このような繋がりを持続させなかったがゆえの帰結なのではないだろうか、と考えたりもする。

　持続させるべきことと、しなくてもよいこと(寧ろ変化させるべきこと)を区別し、そのうえで持続させるべきことは、各々がそれらを持続させられる力を持つことが、持続可能な社会の実現には必要なのではないだろうか。『継続は力なり』という言葉は、コツコツ続けることが自己への糧になるという意味のほかに、コミュニティや繋がりといった、持続させるべきものが社会的にも効力を発揮する、という意味にも捉えられると思う。