見出し画像

僕の好きな詩について 第三十八回 白石かずこ

僕の好きな詩を紹介するノート、第三十八回は白石かずこさんです。

第三十一回で登場した北園克衛氏https://note.mu/hally10031003/n/nfe8d2899877d
が開催していたVOWのグループの一員で、流石の奔放さです。

では詩をどうぞ。
―――――――――――――
「虎」白石かずこ

すると
虎は 彼でもなかった
私の 胸の部分の昨日から今日へと
山脈がよこたわり
虎の部屋が
明日の方へと空いていた

私の意志の中に虎が生える
バケツが生えるのと同様に
風が生え
街が生え その街にビルの眼が
空しく 空ののどにむかって生えるように

私の腕の中で 虎のキバの折れる音がする
あるいは 昨日死んだ彼のシッポのウクレレが
私の行為の中で
無数にちらばる 飛沫の音がする

虎は昨日は 私の恋人で
今日は見知らぬ他人の背中であるからといって
虎が明日に という空やサーカスがあるというのではない

虎とミルクを飲もう
虎と風邪をひこう
虎とジャンプに就いて討論する
というパジャマをはこう

私の孤独に通り抜けていく髭がある
私の愛に 暗い太陽が投げこむあごがある
私の失意に 何も抜けさせない縞のドアがある
私の行為の尾根に
ひるがえる お前の尾がある 時
ときに
一枚の紙の中に 虎よ
お前を折り曲げて眠らせよう

明日 という姿勢のひろがりの中に
また 今日がお前をおっていくために

―――――――――――――

恐らく日本ではじめて性について赤裸々なことばで詩を書いた女性なんじゃないかと思います。この詩よりもっとダイレクトなものも多いですが、長いものが多いのでここには載せません。

カナダのバンクーバーで生まれた白石女史は高校三年生十七歳の時<VOU>に入り大学一回生の時には北園克衛の薦めで第一詩集を出版しています。最果タヒさんや文月悠光さん帷子耀氏もそうですが、才能は始めから光っていて、それはとても残酷です。詩は書き手そのもの、人間です。こんなにエンターテイメント的でないエンターテイメントがあるでしょうか。芸術と教養とエンターテイメントとファッションの間でゆらゆらとする文芸なのは、時代のせいでしょうか。

#詩 #現代詩 #感想文 #白石かずこ #虎

いつか詩集を出したいと思っています。その資金に充てさせていただきますので、よろしければサポートをお願いいたします。