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「役割を終えた」

 日本棋院が発行している囲碁の情報紙「週刊碁」が8月で休刊になると発表された。


 まず驚いたのは、最盛期の部数が20万部に達していたということ。これはわざわざ週刊新聞を取り寄せるような熱心なファンの数である。それほどでもない“軽い愛好家”も含めた裾野はその何倍もあったわけだ。身近にはさっぱり見かけないだけに、意外だった。

 いまや棋譜や情報はネットで取る時代。週刊というのんびりさもあって「役割を終えた」という日本棋院のコメントはまさに正しい。

 近年の発行部数は2万部だったという。部数が10分の1になったからといって、愛好家もそこまで落ち込んだという単純計算にはならないのだろう。

 それでも。

 記事にも「囲碁人口や購読者数の減少に伴い(発行部部数が)落ち込んでいた」とあるように、将棋に比べて囲碁の存在感は薄まる一方だ。将棋界には藤井聡太という何十年にひとりの天才が出現して、マスコミの露出も段違い。仲邑菫ちゃんという新星に期待がかかる。

 「ゲームとしての奥の深さ」はともかく、そもそもルールが難解でとっつきにくい。「王さまを詰まされたら負け」という将棋の単純さに遠く及ばず、これから始めようという初心者にとっては致命的だ。そういえば「将棋チャンネル」で盛り上がるAbema TVにも「囲碁チャンネル」は存在しない。

 仲邑菫ちゃんは父親がプロの囲碁棋士で母親もインストラクターという「囲碁一家」だが、さて、いまの普通の子どもたちが「囲碁と出会う」チャンスがどれだけあるのか。藤井聡太竜王も、たまたま家族が買い与えた将棋盤が出会いだったという家庭。そもそもそこから違う。

 いま、ひとつのメディアが「役割を終える」瞬間を目撃した。「紙という発行形態」「電波やネットに比べた速報性のなさ」というハンディキャップは一般紙もまったく同じ。それでも、コンテンツ(内容)は残る。“どうやって生き残るのか”というビジネスとしての曲がり角を迎えている。
(23/3/30)

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