見出し画像

日本人だから知ってるでしょ?あの街って今大丈夫なの

たびたび、日本について聞かれて、なんて言ったらいいのだろうと、私は考えてしまうことがあります。

外国の方が投げてくる日本に関する質問ボールは、通常ぼんやり生きていると予想しないような方向から飛んできたりするので、だいたいデッドボール。私は横腹で受け、拾い損ねて、あたふたと四つん這いで玉を追いかけます。

よくあるのは、出身地にまつわる小話についてです。

出会った人にどこ出身?と聞かれて、私は「日本です」と答えるわけですが、しばしば、一歩踏み込んで「日本のどこ?」と聞かれます。

私は思うのですが、一歩踏み込んでくる人は、東京または京都か大阪かを期待していて、それが出てきたら「行ったことあるよ!」と言いたいのではないかと。だいたい、行ったことがあるか、行ってみたいのが相場だと推察しています。

しかし、私は広島出身でして、残念ですが出身地を彼らの行ったことある場所に合わせて捏造するわけにはいきませんから、「広島です」と答えます。

これが神戸市とか豊田市とか、何かポジティブな小話に発展する地名ならいいのにな、なんて思ってしまうのですが。旅行で行ったことがなくても、Kobeビーフ、Toyota車なんて、とても広く認知されているワードで、知らない人同士がするちょっとした会話に当たり障りなく最適だと思うのですが、どうなんでしょう。そうでもないのかな。

認知度で言うと、広島は百発百中みなさんご存知で、知らないと言われることは皆無です。ただ困るのは、知ってる、となった後の、その後の展開です。

ヒロシマと聞くと、9割9分9厘の人が、眉を上げて、「あぁ」とも「おぉ」、ともつかぬ声を出し、人によっては「ボム・・・?」と驚きと戸惑いの間で一瞬止まるので、私は「フェイマス・シティだよね、アハハ」と言ってみます。もちろん笑いは起きません。

そして、おおむねの場合で、「え、ヒロシマって今大丈夫なの?」「街はどうなってるの」と聞かれます。

広島はポンペイ遺跡のように一撃にして消滅したとか、広島人は恐竜のように絶滅したとでも思ってたのかな。

聞いた話ですが、焼け野原と化した街で、自分の家の敷地を言ったもん勝ちとばかりに境界線を大きく引き直した人もいたり、広島人は意欲的に(?)生き抜いていたのです。

私は「今は大丈夫だよ、2百万人くらいの中ぐらいの都市だよ」と言ってみます。しかし、多くの場合、都市としての魅力については興味はないようで。

以前、チェコ人の女性から、「チェルノブイリは今も放射能が問題だけど、広島はどうなんだ」と聞かれたことがありました。

プラハの小さなゲストハウスに泊まったとき、チェックインをしてくれた30代か40代くらいの女性は、私のパスポートにHIROSHIMAと書いてあるのを見て、「あなた広島からなの?最近、チェルノブイリのドラマ見て、気になってたのよ!」と興奮して話し出しました。

2019年当時、原発事故の瞬間を、実話をもとに描いたドラマ「チェルノブイリ」は、とても話題でした(日本ではアマゾンプライムで視聴可能)。ゲストハウスのお姉さんは、「チェルノブイリは今も放射能で近づけないのに、なぜ広島は大丈夫だと言えるのか」と私に訊きます。「今も残ってるんじゃないのか」と。

広島人なら知ってるでしょ、と。

「爆弾は空中で炸裂して、放射能は降り注いだけど、もう消えて、大丈夫なんじゃないのかな」と返してみました。私は想像で答えています。

チェルノブイリみたいに、いまだにそこに物質があるわけじゃないから、と思うのですが、うまく伝わったのか、お姉さんは納得したのか、どうだったのでしょうね。

お姉さんは、「私たちが子どものころにあのチェルノブイリの事故があってね、このへんまで風に乗って飛んできて、欧州のいろんなところでニュースになって、外に出たらいけないとか言われたり、大変だったんだから」と、教えてくれました。

雑談とは、共通につつける話題を見つけて、つつき合うのものだと理解しています。違いますかね。

自慢できることではありませんが、私は基本的に瞬発力と柔軟性に欠ける人間でして、会話が上手ではなく、初めて会った人同士が軽くする、ちょっとした雑談は非常に下手です。時間がたっぷりあるならまだいいのですが、ちょっとした時間だと私の頭はすぐにオーバーヒートしてしまいます。

チェックインの場面みたいな短時間で、原子爆弾と原発事故の被害について話す、というのは、一体、どこまで話題を広げるのか、私にとっては、終わりの見えない地平線に沈みゆく夕日のように、果てしなく広がると同時に時間が限られているため、落ち着いていられませんし、会話をしながらいろんなところから汗がふき出してきます。

毎度、出身を聞かれると、話題は、広島=アトミック・ボム、なので、何かこれにまつわる小話をストックしておかねばならん、と思い、具体例が良いのかしら、と、親族に原爆で亡くなった人がいる、曽祖父が原爆の数日後に亡くなった、祖母は被曝手帳を持ってた、と言う話を引き出しに用意はしてみました。

それらを、初対面の人に出身地を聞かれ雑談に花を咲かせる段階になったとき、引き出しから出して使ってみました。すぐに気付いたのですが、私が引き出しから出してくるのが暗い事実なので、みんな、なんとも言い難い顔をして、小話はたいして盛り上がらないのです。

おぉ…ヒロシマ〜、と言われた時に、何かおもしろい返しができたらいいのですが。冗談と考えると、たいてい不適切なことしか思いつきませんし、困ったものです。いまだに悩んでいます。

▼ 他にも聞かれてきた「日本人だから知ってるでしょ?」


この記事が参加している募集

ふるさとを語ろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?