野良のハナ

無計画に日本を出て十年、欧州4カ国で生息、スペインの島に漂着。集団や組織になじめずノラ…

野良のハナ

無計画に日本を出て十年、欧州4カ国で生息、スペインの島に漂着。集団や組織になじめずノラ犬のように生き、犬のケツばかり追っている人。強烈な認知の歪みの泥水の中ほふく前進中。要点を端的に話すことが壊滅的で、路上で全所持品を広げて裸で勝手に蚤の市状態の会話力で、人様を困らせています。

最近の記事

アーティストという人たち:カエルの革命

アーティストという人たちと話をすると、世間の常識や一般的な安定とかけ離れた生活をしていて、いろんな生き方があるのだな、と興味深くききます。 世の中には、どうやって成り立っているのかよくわからない商売や、どうやってそこまで到達するのかよくわからない職業があると思います。スズメの交尾は見たことがなくても(見たことありますか?)、スズメの繁栄が成立しているように、プロセスがわからなくてもいろんなことが事実としてあるわけです。 私は職業アーティストの知り合いがいなかったもので、そ

    • 日本人だから知ってるでしょ?あの街って今大丈夫なの

      たびたび、日本について聞かれて、なんて言ったらいいのだろうと、私は考えてしまうことがあります。 外国の方が投げてくる日本に関する質問ボールは、通常ぼんやり生きていると予想しないような方向から飛んできたりするので、だいたいデッドボール。私は横腹で受け、拾い損ねて、あたふたと四つん這いで玉を追いかけます。 よくあるのは、出身地にまつわる小話についてです。 出会った人にどこ出身?と聞かれて、私は「日本です」と答えるわけですが、しばしば、一歩踏み込んで「日本のどこ?」と聞かれま

      • 壁の脱腸と気にしすぎのポリス

        最近、私が住んでいるアパートの階下の部屋に、エアコンの取り付け工事をするため業者がやってきました。階下の住人は、工事に立ち会いません。 なぜなら、彼らはイギリス人で、ここ(スペインの島)には年に2〜3度来る程度、普段は住んでいないからです。我々は賃貸で常時くらしていますが、彼らにとってはホリデーハウス、つまり別荘であり、年間の9割以上はただの無人の空間として鎮座しています。 エアコンの取り付け工事は、騒音は正直うっとうしいですが、それはいろいろお互い様でしょうから受け流し

        • チップどろんこ相撲

          日本には飲食店でチップ文化がないので、アメリカみたいに最低15とか20%はチップをあげないといけないというプレッシャーにおののく必要がないですから、利用者としては気がラクだと思っています。 逆に、チップ文化の人たちからしたら、日本でとっても素敵なサービスをしてくれたウエイターさんに、チップをあげたくなっちゃう衝動は一体どう処理したらいいの、この満足感この感謝はどう表現したらいいの、となるのではと想像します。 私がただ今おりますスペインでは、チップ圧力は強くなく、みんな小銭

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          犬撫でアジア人のトゥルーマン・ショー

          知らない人から、「前に会ったことがある」と言われるのは、ひやっとするものです。自分にとっては見覚えがない人なのに、相手は自分を知っている、とても奇妙なミステリー小説のような展開です。いつどこで、どんな場面で会ったのか、子どもの乳歯のように抜け落ち、記憶から失われています。 異国の地で生きていると、どうせ誰も私のことなんて知らないし、気にもとめてないし、と、後先考えずに行動することがあるのですが、実際には人は思った以上に他人のことを記憶しているもので。 私は、完全に初対面だ

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          アーティストという人:汗ばむ陽気の日に、クールにジャケットを着続ける画家

          私はあまり自分を信じることができない人間なので、アーティストという人たちに会うと、自分を信じていてすごいなと、いつも感服してしまいます。 安定や低リスクを求める場合、通常人々は企業など何かしらの集団に属して働くことを選択するのが一般的ですが、アーティストたちは、始めは生活していけるかわからないリスクをとって、自分が創造するアートを信じて活動しているのですよね。 当然ながら、「自分としては全然良いと思わないし、やりたくないんだけど」と言いながら専業でアーティスト活動し続ける

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          船長と妄想の羊追い

          近所のカフェのマスター(船長)は、山奥に住む仙人のごとく静かに、テラスの定位置でパソコンを見ながらコカコーラを飲んでいます。定位置は端っこなのですが、入口が見わたせるので、全ては彼のコントロール下にあります。客が来れば立ち上がりカウンターにゆっくり歩いていく。 カフェは、週7日営業、平日は朝から夜まで、週末や祝日は昼から夜までです。毎日開いていて、閉まってることがありません。船長はだいたい一人で働いていますが、必要に応じてパートナーの女性も店に立ちます。そのパートナーが今怪

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          花粉症のない島のある春の出来事

          花粉症の人にとって春は、鼻が玉ねぎの薄皮のようにむけ、目も耳も喉の奥も全ての顔の穴がかゆく、唐突に湧き出した井戸のような鼻水に睡眠を遮られ、もはや何が原因で体調が悪いのかわけのわからない季節です。 花粉症がない人を、私は心から羨ましく思います。花粉症がある人には心から苦しさに共感します。 鈍い頭痛を感じながら、私は思い出したのですが、以前に南欧の島国マルタに住んでいたときは、花粉症から完全に解放されていました。人というものは過去の良い思い出が強化されてしまう傾向があります

          花粉症のない島のある春の出来事

          不思議なものを見る日

          不思議なものを見る日、というのが時々あります。妖精や幽霊が見えるとかそういうことではないのですが、私が不思議だなと思うことは、みんなは不思議に思っていないなら、それは普通のことであって、ちっとも不思議ではないのかな、という類のことです。 トートバッグ朝、近所の路地を歩いていると、向かいから、スーツを着た男性が歩いてきた。40代か50代かと思われるスラッとした細身の黒人男性で、革靴を履いて、頭の先からつま先までフォーマルな装いでしたが、首からエコバックのような布袋を下げていま

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          バベルの塔的アイスカフェラテの乱

          バベルの塔の神話をご存知でしょうか。そんなの常識だと言われればそれまでなのですが、犬サイズの脳しか持たない私は、割と大人になって知り、その解釈までは理解していなかったものの、印象に残っていました。 旧約聖書に出てくるバベルの塔は、天にまで届くような塔を建ていた人間を見て、神が怒り、それまで一つだった人間の言語をバラバラにして、人間が互いに意志疎通できないようにした、と言われます。神話ですが、もしそれが本当なら、学生および語学で苦労している人たちが知ったら頭を抱える事実です。

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          日本人だから知ってるでしょ?聖地巡礼、お隣の国

          初対面の人と立ち話というのは、俊敏性と柔軟性が求められ、私にとって非常にハードルの高い種目です。知らない人同士のちょっとした会話は、軽く当たり障りなくお互いに共有しやすいトピック、かつ限られた時間で終わるコンパクトな話題が適切と認識しています。 私は言わない方がいいことを口走ってしまううえに、話が冗長な人間なので、社交の場面は母国語であってもあたふたします。 海外ではそれに加えて、私が日本人だと分かった時点で、相手が良かれと思って、日本に絡んだ話題を投下してくれて、これま

          日本人だから知ってるでしょ?聖地巡礼、お隣の国

          不運なロシアンルーレットとスモモ

          2019年の夏、母と私は高速バスの中でトラブルに見舞われていました。チェコのプラハ行きのバスに、ベルリンから乗り込んだばかりの時です。まだバスは出発していません。 田んぼに囲まれた静かな町に住む母が、当時私が住んでいたベルリンにはるばる遊びに来てくれました。 英語も喋れない、150cmもない小柄な、齢70近い女性が、人生初の一人海外旅行に果敢に挑戦して、2回の飛行機の乗り継ぎをクリアし、せっかく来てくれたのだから、ビール瓶が漂うベルリンの淀んだ運河やジャンキーが酒盛りをし

          不運なロシアンルーレットとスモモ

          口の紙幣、再利用の風船、茶碗大のピーナツ

          ウルグアイ出身の青年、ニコラスくんと時々話をします。彼はコーヒーを作ったり、カクテルを作ったりする人です。バリスタと呼ぶのかバーテンダーと呼ぶのか、私には彼の正式な肩書きはわからないのですが、10年近くこの仕事をしていると言い、英語が話せる若者で、テキパキと手を動かしながら雑談に付き合ってくれます。 私は現地語が話せるようにならねばと意識だけはしていますが、会話のキャッチボールが成立するには程遠いので、時に自分がまともにしゃべれないことを気にせず言葉を発したいと思うとき、彼

          口の紙幣、再利用の風船、茶碗大のピーナツ

          悪魔という名の薬草酒とウインク

          ある日、相方が家に帰ってくると「きみが好きそうな本屋を見つけたよ」と言いました。私は本屋に行くことはほとんどありません。なぜなら、現地語で本が読めるほどの言語能力がない私が本屋に行っても、未成年が親に同行してホテルのすてきなラウンジでオレンジジュースを飲みながら退屈するように、化粧品売り場で買い物する女性の後ろをなすすべもなく追随する男性と同じくらい、時間を持て余してしまいます。 私が好きそうな本屋だと言って相方が見せてくれた画像には、店内の奥の窓の横に小さなバーカウンター

          悪魔という名の薬草酒とウインク

          少数派が多数派になる濃縮エリアの棒アイス

          ベルリンに住んでいたときに、ワインとピアノ演奏のペアリングという、何を血迷ったかひどくおしゃれなイベントに行ったことがあります。 私は友人があまりいないし、1人でお酒を飲むのは好きなので、そこにワインがあってピアノも聴けるなら良いじゃないか、と思って出向いたのです。その頃、私は1人気軽に飲みに行ける居心地の良い場所を見つけられず、何か新たな機会に挑戦せねばと奮い立っていたのかもしれません。 ワインとピアノ演奏のペアリングが開催される場所はシェーネベルク(Schöneber

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          日本人だから知ってるでしょ?セブンサムライのミフネ、日本語キーボード編

          私が日本人だとわかると、「日本人なら知ってるでしょ?」と、突如、空から降ってきたシシャモが頭に直撃するような質問を受けることがあります。以前にはお経の意味をスペイン語で答えよ、という難問をいただいたことを書きました。もちろん答えられませんでした。 日本文化のクロオビ級の質問に答えられないうえ、そこから気の利いた会話も展開できない私は、いつもただただ冷や汗か脂汗かわからない液体を脇に感じながら、訊いてきた人の輝きを着実に消していきます。 会話というものはナマモノですから、そ

          日本人だから知ってるでしょ?セブンサムライのミフネ、日本語キーボード編