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日本人だから知ってるでしょ?偉大なる二次元の力

なんでもない無名のアジア人が、時に日本代表の存在になることがあります。海外で生きていますと、初対面の人が、私が日本人だとわかると、自分が持っている日本関連ネタを、「日本人なら知ってるでしょ」と豪速球で投げてきます。

私はぼんやり生きており、何にも詳しくない人間でして、その日本関連ネタに反応する筋肉を持ち合わせていません。そのため、豪速球を受け損ない、だいたい小指を折ったり鼻血を出したりするのが常です。

これまでに、お経の意味ミフネ、パソコンのキーボードヒロシマについて質問されたことを書きました。

その度に自分の無知と、会話力のなさを目の当たりにするのですが、事実だから致し方のないことです。それでも懲りずに、知識や会話力をどうにかするわけでもなく、あぁ答えられなかったなぁ、という後悔のようなものに粉をかけて、せっせとこね回しながら、時々丸めて台に叩きつけたりして、毎日を過ごしています。

ワンピース

2023年の夏頃、飲み物を注文するのにカフェのカウンターで順番待ちをしていた時、横にいた若い男性がいきなり「ワンピース!」と私に向かってまあまあ大きな声で言いました。私は唐突なお声がけに、ただ目を丸くして見返したところ、彼は「ワンピース!あんた日本人じゃないのか?」と聞きます。

いや、日本人ですけど、その声がけに対して私がとるべき最も適切な反応は何なのでしょうか。彼の意味するワンピースが、あの麦わら帽子の少年の漫画であろうとは推測できるのですが、それ以上の知識は残念ながら私にはありません。

彼はまだ何か喋っていましたが、私のスペイン語力もすぐに限界がきて、会話は立ち消えました。私は誰かが灯した会話というキャンドルの火を消火器で吹き消すのが上手な人間です。

後日、日本の友人に「いきなり、ワンピース!って言われた」と話していると、「ネットフリックスの実写版が評判いいからね」と教えてくれました。もし知ってたらキャラクターや配役について意見交換をしたり、原作と実写版の相違点についてなど、考察を語り合うのでしょうか。

ジョジョ

以前、語学学校で隣の席だったベネズエラ出身の10代の女の子に「あなた日本人?私はジョジョが好きなんだ」と話しかけられました。

ご存じの、という前提で“ジョジョ”話を進め、彼女が好きなキャラクターやコスプレの話をしてくれます。勝手に喋ってくれると、こちらとしては筋力が必要とされずラクなので、私は大人らしく、知らないことを適当に相槌を打ちながら話を聞いていました。

10代の女の子は成熟していますから、「ワンピース!」と言うだけの青年とは異なり、会話は一方的ではなくキャッチボールであり、相手に質問をした方が良い、と認識していたようで、「あなたの好きなアニメは何?」と聞いてきました。

私の好きなアニメ?もうアニメなんて何十年も見てないし、何も思いつきません。私の困った様子を見て、10代の彼女は「マンガでもいいよ、シリーズでも」と、選択肢の幅を広げてくれました。しかし、彼女の寛大な処置にもかかわらず、私の空っぽの引き出しからは、やはり何も出てきません。

1日考えれば何か絞り出せるかもしれませんが、会話はナマモノです。その場で軽やかにすぐ聞きたいわけで、じっくり熟考した答えなんて求められていません。「良い質問ですね。とってもいい質問だから、次回の授業の最初にしっかり時間をとって説明するね」とは言えません。

適当に答えることも誤魔化す術も持たない私は、「マンガもアニメも見ないから、わからないよ、ごめんね」と正直に言いました。すると、ベネズエラ人の彼女は「日本人なのにアニメもマンガも見ないの?珍しいね」と、驚いていました。

私は「ドラえもんくらいはわかるよ」と付け加えましたが、なんの足しにもなりません。「ほんと詳しくないし、ゲームもしないの。ティピカルな日本人じゃないでしょ。度々、こうやって人々をガッカリさせるんだよ」と言い、10代の彼女に「It's OK, don't worry」となぐさめ(?)られました。

そうなのです、「日本人なら」と振ってくれる話題が、ことごとくわからないので、会話をしっかり鎮火させる火消し名人なのです。

AKIRA

時には、日本関連話題が目の前に置かれて、質問されることなく、平穏に流れることもあります。

先日、市場のカフェへ朝ごはんを食べに行ったとき、ウエイターのお兄さんが「あなたはどこから?」と聞くので「日本です」と答えると、「日本行ってみたいんだよね。AKIRAとかワンピースが好きでさ。日本語もちょっと勉強してるんだ。アニメ見ててね。いただきま〜すってさ。あはは。もうちょっと勉強して、2年後くらいには行ってみたいな」と、笑顔で話してくれました。

親切にメニューを説明してくれて、とても感じがよい、細くて背の高い黒人のお兄さんでした。私は「あなたはどこから?」と聞くと、彼は「出身はパリなんだけど、親はマダガスカルだよ」と教えてくれました。おそらくフランスで生まれ育った移民二世なのでしょう。

その彼が、スペインで働き、日本のアニメを見て、いただきま〜す、と言っている。世界は無限なような、親密なような、不思議な感覚になります。

お兄さんは私たちが注文した朝食を運んできて、笑顔で「いただきま〜す」と言ってくれました。

余談ですが、私はこのお兄さんが好きだという「AKIRA」のマンガもアニメ映画も見たことがありません。私はこの題名を海外に住むようになってから知りました。あまりにも、人々が好きなアニメで名をあげるので。

初めてこのAKIRAというアニメがあると聞いた時、「知らないなぁ、そんなに有名じゃないんじゃないのかな」と私は言って、日本の友達に「知ってる?」とメッセージすると、「嘘でしょ!?見たことないの?超有名だよ!いろんな作品に影響を与えたんだよ!」と驚かれたので、あ、どうやら私はスタンダードや常識から遠いらしい、と気づき始めたのでした。

それにしても二次元の文化の影響力は偉大ですね。

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