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日本人だから知ってるでしょ?セブンサムライのミフネ、日本語キーボード編

私が日本人だとわかると、「日本人なら知ってるでしょ?」と、突如、空から降ってきたシシャモが頭に直撃するような質問を受けることがあります。以前にはお経の意味をスペイン語で答えよ、という難問をいただいたことを書きました。もちろん答えられませんでした。

日本文化のクロオビ級の質問に答えられないうえ、そこから気の利いた会話も展開できない私は、いつもただただ冷や汗か脂汗かわからない液体を脇に感じながら、訊いてきた人の輝きを着実に消していきます。

会話というものはナマモノですから、その場で即答することが求められ、「大変興味深い質問ですね。一度持ち帰って部署で検討し、改めてメールで回答させていただきます」とは言えません。

最近きかれた日本人なら知ってるでしょ?を紹介します。

セブンサムライのミフネ

アルゼンチン出身の青年(マルセロくん)とカフェで立ち話をしていた時、「うちのおじいちゃんはセブンサムライのミフネにそっくりなんだよ。映画見てた時に、おじいちゃん!!って驚いたよ。知ってるでしょ?ミフネ」

私の頭の中にはミフネという言葉は理解できますが、ミフネの顔はでてきません。

七人の侍、有名だけど、見たこと、多分ない、三船敏郎、名前しか知らない。知ってるかと聞かれてるんだから、イエスかノーか返事しなきゃ。

イ、イエス・・・。

こういう時に会話をどう続けるのが適切なのか、私には分かりません。よく知ってるのね!黒澤映画好きなの?それはいつ見たの?私見たことないんだけど、どうだった?とかでしょうか。

でもマルセロくんは、おじいちゃんとその俳優が似ていた、ということを言いたいわけであって、映画自体を深掘りする必要はないような気もします。

最適解が全く思い浮かばない私の絞り出した言葉は「おじいちゃんはまだ生きてるの?」でした。

「ノーノーノー、おじいちゃんもう生きてないよ」と言って、おじいちゃんの話題はそれ以上広がりをみせず終了。すぐにマルセロくんは他の話題に移りました(と思うのですが、もはや私は目を白黒させていたので記憶がありません)。

七人の侍の三船敏郎さんを検索して見てみましたが、眉毛がはっきりして目と眉が近い、鼻が高い、顔が平たくない、これは西洋のおじいちゃんに似てる人がいるのもありえるなと納得です。そうか、知ってたら、「あ〜!ミフネは目鼻大きくて眉も強いから、あなたのおじいちゃんそんな感じだったんだね!」と話が盛り上がったのか・・・。

日本の定番の文化的なものごとは知っているに越したことはありません。日本人なのにわからないということは、せっかく投げかけてくれたボールを土に穴掘って埋めるようなものです。

日本語のキーボードの打ち方

日本語はなぜ3つの文字を使うのか?と、しばしば尋ねられる質問です。

なぜ3つ?

日本語のコンセプトを知らない人に日本語の3種類の文字を説明するのはかなり骨が折れます。日本語の成り立ちを相手にわかりやすく説明する知識を、残念ながら私は持ち合わせていません。

ひらがなが最も基礎的で音を表して、ひらがなだけで書いても伝わるけど、漢字っていうチャイニーズキャラクターは一文字で意味を表せるようになって、ひらがなは助詞や送り仮名に使って、カタカナは外来語とか擬音語とかで使われるよ。

なんて説明しながら、どんどん相手の眉間にしわが寄り曇っていく顔を見ていると、なんて私はつまらないことを言ってるのだろう、と申し訳なくなります。

ちょっとした雑談の軽い雰囲気も、こんな説明ですぐに湿気させ、パリパリでおいしいポテトチップスもふにゃふにゃです。私の前にあればすぐにカリッとした心地よい歯触りはすっかり失われます。

ある時、知り合いとビールを飲みながら話している中に、1人のオーストリア人青年がいました。スポーツが好きで、いかにも健康そうな彼は、スペインのこの島でドイツ語教師をしているという。

透明なガラス玉のような目で私を覗き込みながら、「パソコンのキーボードって日本語打つ時どうするの?」と訊いてきました。私の黒く淀んだ瞳は見開き、ややのけぞりながら、キーボードの打ち方?なんて説明するんだろう、と息が止まりました。

目の前にキーボードがあれば、日本語は子音と母音の組み合わせで一文字ができていてね、とアルファベットを押しながらローマ字打ちを見せて説明できますが、会話の流れを止めることなく、実物なしに、瞬時に言葉で説明すると言うのは、私に取っては、お手玉をしながらワンコ蕎麦を食べるような至難の業です。

私は携帯電話でローマ字入力を見せて子音と母音を押して見せようかと思いましたが、私の電話はひらがな入力になっていて、すぐに見せられませんでした。キーボード設定まで行って、ローマ字入力を探せばいいのですが、会話はナマモノ、卓球並みのスピード感が求められ、誰も玉拾いをしている人を眺めて楽しむ人はいません。モタモタしていると話題はすぐに変わってしまいます。

オーストリア人青年は「どうやって文字を変換するの、シフトキーを押しながら打つの?」と加えて尋ねるので、「ええと、スペースキーを押すと変換できるから、最適な漢字を選べるよ」「ふーん、そうなんだー」というところで日本語への興味は収束しました。

日本人なら知ってるでしょ?に対して答えることも一苦労ですが、充分に答える知識がないものの時に、会話の卓球をどう継続するのか、あるいは、どうやったら滑らかに選手交代できるのか。

日の丸を背負って卓球ラケットを振るということは血の汗にじむような日々の鍛練が必要なんですね。

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