見出し画像

FB ーフレンドシップブックー の話

 FBと書くと、Facebookの略称と思われるだろう。それとも流行が落ち着いた今なら、そうでもなくなってしまっているのだろうか。

 中学生の頃、友人に教えてもらった”FB”はFriendship Bookという。

 数枚のメモ帳をホチキス止めしたものに「FB」と書く。そこに英語表記で住所を書いて、外国のペンフレンドへ送る。受け取った相手はまた、住所を書き足して別のペンフレンド送る。書くスペースがなくなったら、作成者へ送り返す。

 趣味や自己アピールなども添えて、新たなペンフレンドを見つけるためのツールだ。
 今となっては、国際交流の場で軽く個人情報のやり取りをしていたことに驚く。メールやSNSが当たり前になってからは、どうなっているのだろう。

 友人に見せてもらったFBにあった住所に手紙を送ったのは、中学生のときだった。確実に返信が来るわけではないから、確か二、三人に同じ手紙を送ったと思う。

 幸運にもドイツから返信が届いた。五歳上のお姉さん。
 そこから彼女との文通は数年間続いた。私のつたない英語によくつき合ってくれたと思う。ちょっと癖のある彼女の字を読むのも、その英語を理解するのも難しかったけれど、異国から届く手紙にワクワクした。

 ポストカードを集めている、という彼女はドイツの風景が写ったカードをよく送ってくれた。時には誰かから届いた葉書がそのまま封筒に入っていて驚いた。もちろん、書かれていたドイツ語はまったく読めなかった。単純にカードとして送ってくれたのだろうけれど、おおらかだなあと思ったものである。

 文通が続いているあいだに私は高校生になり、大学受験を経て一人暮らしを始めた。彼女は、よく手紙に登場していたボーイフレンドと結婚した。

 数か月に一度とはいえ、五年以上続いた交流がいつ頃途絶えてしまったのか。手紙を確認してみると、私が就職活動をはじめた頃に届いたものが最後だった。

 不義理をしてしまったのは私の方か、と申し訳ない気持ちがよみがえる。

 私がいくつか作って彼女に託したFBが、一度だけいっぱいになって帰ってきたことがあった。
 イタリアから届いた手紙には、「ペンパルになって!」と書かれていたので喜んで返事を送ったが、さらなる返信はなかった。

 ドイツの彼女と文通が続いた五年間は、とても大切な縁が結ばれていたのだなと改めて思う。

 いつかドイツへ彼女に会いに行く、という希望は叶わないままだけれど、今も彼女が遠い空の下で、送ってくれた写真のままの笑顔でいてくれることを願っている。

これまでに、頭の中に浮かんでいたさまざまなテーマを文字に起こしていきます。お心にとまることがあれば幸いです。