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詩 『すき』

夜中には雨が降るらしい
冷たい風が入り込む窓に向かう
窓を開けている余剰感
窓を閉めている籠城感
どちらからも親密な安心を得る
 
だから窓が好き
 
扉は少しこわい
ノブを回すときのカチャリという音
大雑把な人が勢いよく閉めるガチャンという音
風でふいにガタガタ鳴る音
扉が開いているのは無防備
扉が閉まっているのは不自由
 
うまく扉と付き合えないでいる
 
窓は眺めるためにある
時間を忘れるという体験ができる
同じ景色でも、何度でも
 
だから窓が好き
 
時どき
夏なのに雪景色に錯覚する
家々の屋根が
草むらが
こんもりと白く色づく
冬が突然現れて、消えるだけ
 
逃げ込んだトイレの窓は小さかった
あの頃のわたしには位置が高すぎるから
背伸びをして
首を伸ばして
必死に外を見た

通学路が見えなくても
教室にいるよりは家の近くに居られる気がした
だから窓が好き
窓はわたしの味方


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