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詩 『紡いで座って暮れていく』

クッションのへこみを整えたら
髪の結び目を少しずらして
首もとのご機嫌を伺いながら
ソファに寝ころがる。
 
おでこの奥でパタパタと叩き出される文字。
落ち着きのない文字たちを
なだめながら褒めそやしながら
じっくりと囲っていく。
 
まだ明かりのついていない電球の下
そばで丸くなる猫のしっぽが腕をなでる。
フルーツは食べたいけれど
皮をむいたり切ったりするのがとても億劫。
ざくろ味の果実酢で満たされる。
 
エアコンのある生活になって五年ほど。
北の地ではエアコン未設置の家も珍しくはない。
一年目は一度も使用せず
二年目におっかなびっくり試運転し
三年目は不経済な使い方に反省し
四年目にはもう一台を追加設置。
 
涼やかな空気に甘やかされつつ
文字たちは転げ回る。
部屋の色合いに目がとまる。
端から濃淡を確認していく癖は抜けない。
 
猫はグフグフ言いながら伸びる。
もうすぐキャンドルを灯す時間。
あの子を想う時間。
ずっと見守っていてねなんて
重荷を背負わせてしまったかもしれない。
答えの出ない後悔を呟きつづける。
 
少しずつ落ち着きはじめた文字たち。
やれやれとまばらに座り始める。
思ったよりも長くかかったけれど
今日はこれで日暮れに入る。



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