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人体特殊冬眠法 凍民八則

#読書メモ

マサチューセッツ工科大学曽根崎教授の完全無欠な「プリンシプル」にたったひとり挑むコールドスリープセンターの非正規職員。

彼女が、どのようにして、彼を論破し、その理論の欠陥を暴き眠る囚人を救う女神になるか。

モルフェウスの領域、という海堂 尊 さんの
作品を読み返す梅雨空の下。

9歳の男の子に、当時の治療法では、全盲もしくは死となってしまう現実から、救うための唯一の方法が人工冬眠だった場合のフィクションです。

彼女は、現実世界で、会話したこともない男児を
五年たったひとりで管理する守り人。冬眠機のデータ管理、体温微調整。ほぼ毎日が誰とも会話もない日々の中ストーリーは進む。

そして、彼が目覚めたあと、それを知り、身体だけ14才になって現実世界に戻された子はどう
生きる道を見つけるでしょう。
その時、治療薬は使えるようになっていて彼を救ってくれるでしょうか?
冬眠前の両親が彼が眠っている間に離婚してしまうなかなかつらいリアルが潜んでます。

そして、ドナー同様、彼女の存在は、彼に知られてはならない法則。もしその眠りの中、誰かが
支配者となりあなたの無意識に何かを催眠療法のように仕込むことさえ可能な立場だったら?

私は、この医療ストーリーの登場人物のなかで
西野さんと呼ばれる黒スーツに濃紺のネクタイの
男性に惹かれます。彼女は彼をリーパー(死神)
と呼びたった一夜を共にした彼に全てを託す。

以下は、そのストーリーの中で気になった言葉。

個人を支えるために構築された社会が、個人よりも優位に立ち、個人を圧殺していいはずがない。
社会を構築する個人が破壊されれば社会の土台が崩れてしまうなど、自明なことだ。その時社会は担ぎ手を失った神輿のように地に落ちる。
人々が集わなくなれば、それはもはや祭りとは呼べず、祭りが存在しなければ、神輿の存在意義も
消滅する。

隠蔽された事件が表に出る。どうして事件が起こったか調べると、システムの欠陥が見つかる。
これまでは集団の論理で押し隠せたが、数の論理に支えられた集団は瓦解し、論理が崩壊した。
結果、ひとりの声が社会に届くようになる。社会という虚構が全てに優先されるかのように刷り込まれた私たちにとって、それはたぶんいいことなのだ。少しだけ正気に戻れば、そうした考えこそが最大の虚構で、集団催眠で見せられた夢物語だったのかもしれないと気づくはずだから。

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