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東海道新幹線とAMBITIOUS JAPAN!

 私は奈良が好きだ。 
 もう5年近く足を運んでいないが、目を閉じれば、大好きな飛鳥寺や春日大社の様子をありありと思い浮べることができる。

 現地に行かずして、奈良を体感できる術を身につけ始めている今日この頃ではあるが、やはり、できることなら目を閉じずとも、奈良の光景を楽しみたい。

 関東民の私が奈良に行く際は、新幹線と近鉄が主な交通手段になる。

 乗り込む新幹線は東海道新幹線。
 青いシートに身を沈めたとき、必ず耳にするのが車内チャイムで流れるTOKIOAMBITIOUS JAPAN!だ。単調な電子音でありながら、どこか涼しげで、さわやか。このチャイムを聞くと、 

 私はこれから奈良に行くんだ!

 そんな喜びが胸の内に溢れ、旅の気分が一気に盛り上がる。
 もしかしたら、旅をしていて一番楽しいのは、こういう瞬間なのではないかと思う。
 流れていく車窓の景色を眺めながら、各々選んだ駅弁に舌鼓を打つ。新幹線が停車駅に到着すると、またAMBITIOUS JAPAN!が聞こえてくる。そうしているうちに京都に到着し、AMBITIOUS JAPAN!を聞きながら降車するのである。そうして近鉄に乗り換え、奈良へと向かう。

2009年にのぞみの車内で食べた駅弁。
前席の青いシートが写っている。


 ここ数年、疫病の影響で旅行から足が遠のいている。元々、出掛けるよりも家にいる方が気楽な性分もあり、旅に行かないことに体が慣れてしまった。一度足が遠のくと、また歩を進めるのには、それなりのエネルギーがいる。
 またそのうちに、などと呑気に思っていたら、こんなニュースが目に飛び込んできた。


 20年ぶりに、車内チャイムの音楽が変更されるのだという。もう既に新しいテーマソングのCMも公開されており、その曲が車内チャイムの採用されることが決まっている。のぞみの車内で、AMBITIOUS JAPAN!は、もう聞けなくなるのだ。

 奈良の名所を巡る度に、どこかホッとする気持ちになるのは、その景色に大きな変化がないからだ。街並みや店舗が変わることがあっても、目的地には必ず鹿がいて、飛鳥寺には飛鳥大仏が座っている。
 変わらないものがそこにあると、自分を待っていてくれたような、温かい気持ちに包まれる。それが旅人の身勝手な思い込みだとわかっていても、そういう気持ちを味わうことも旅の醍醐味だ。しみじみ味わいたくなってしまう。

 目に映る景色が変わることはある。
 だが、思い入れのある《音》が変わる経験は、今回が初めてのような気がする。

 旅を盛り上げてくれた車内チャイムの曲が変わる。
 今はそれが、ただただ寂しい。新しい車内チャイムを耳にしたとき、私の目にN700系の車内は、どう映るだろう。「もう少し待って」と言いたい気持ちもあるが、変わりゆく物事に寂しさを感じることもまた、生きていく醍醐味なのかもしれない。



 


こちらが新しいテーマソングです。
「会いにいこう」 歌:UA/作曲:岩崎太整


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