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生一本のそばがき

「じょうずにできたねー!」

子供が褒められたのかな、と声のする方を見ると、
夫が見ず知らずのおじいさんに褒められていた。
照れながらフニャフニャ笑う夫の頬をくすぐるように、
出来たてのそばがきがホワホワと湯気を立てている。

長野県の戸隠神社で開催されるそば祭りでは、
戸隠そば名人による蕎麦切り、献納行列、振る舞いそばの他に、
無料のそばがき体験に参加できる。
そばの実を石臼で挽き、挽いたそば粉を湯で練り、
つゆと薬味を載せて頂く。
私も挑戦したが、これがなかなか難しい。

「コレ、食べてみて♪」
夫の作ったそばがきは見た目もふんわり。
舌触りもなめらかで溶けるようだ。
「時々、鍋を火から離しながら、丁寧に練るんだよ」
まっすぐな心でそば粉と向き合い、
生一本に練ることで旨いそばがきができるのだ。
私は自分で作ったそばがきをモチャモチャ噛みながら、
心が曲がっていると固いそばがきになるのかもしれない、と
我が身を振り返った。



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