見出し画像

とんだアサリの見分け方

 今日は立春。暦の上ではもう春だ。
 春の食べ物といえば、山のものだと、タラの芽やフキノトウなど、香りの良い山菜がたくさんあるが、海のものは、何といってもアサリである。アサリは砂出しさえしてしまえば、みそ汁、酒蒸し、洋風のパスタにだって使える旨味の万能選手だ。

 しかし今、このアサリに激震が走っている。なんと、熊本産として売られていたアサリの97%が、実は外国産だったのだ。私はこの産地偽装のニュースを知り、

「きゅっ…きゅうじゅう、ななぱぁせんとぉー?!」

 あさっての方向に、声が漏れて飛んで行ってしまった。私のように、数字が苦手な人間は、あまりの数値を耳にすると、一度ひらがなに変換してから発音しないと、理解が追いつかない。

 しかし、それにしても97%はすごい。熊本県産として売られていたアサリのうち、国産のアサリはわずか3%のみ。
 この数字が逆であれば、もしかしたら、どこかで外国産を口にしていたかも…と思うくらいで済むのだが、97%ではどう考えても、外国産を食べていたとしか思えない。

 私は今まで、熊本はアサリの一大産地だと思っていた。しかし、本当にアサリは熊本に生息していたのだろうか。そんな疑念が沸いてきてしまうくらい、97%という数字は大きい。

「あーあ、今まで知らずに外国産を食べていたんだねぇ。国産かどうかなんて、素人には見分けがつかないもん…」
 私がそうボヤくと、

「アサリを見分けるいい方法があるよ」

 夫が言い出した。普段料理をしない夫が、そんな豆知識を持っているとは知らなかった。今後のためにも、これは是非とも聞いておきたい。私は、
「へぇ、どんな?」
 と言って、身を乗り出した。

「あのね、アサリの砂出しをしているときに、こんにちは、って言って、ピューッと水を吹くのが国産で、ニーハオ、って言って、水を吹いたら中国産だよ」

 どうやら真面目に聞く話ではなかったようだ。

 私は乗り出した身を元に戻し、ニュースの続きに耳を傾けた。
 熊本産のアサリは、今後2か月は出荷停止になるという。どちらにせよ、国産アサリの数が激減するわけだ。そうなると、価格の高騰だけでなく、スーパーで国産アサリを見かけること自体なくなってしまうかもしれない。

 アサリの特売に心躍らせ、買い求めていた日々が消える。あの愛らしいアサリの砂抜き姿を今年は見られない可能性もある。
 私にとって、アサリの砂抜きは春の風物詩だ。清少納言が「春はあけぼの」と言うのなら、私は「春はあさりよ」と言い返したいくらい、春はアサリが不可欠なのだ。

 立春だというのに、食卓に春が遠のいてしまったような気がして悲しい。この春、どうしてもアサリが食べたくなったら、
「ニーハオ」
 と挨拶して、ピューっと返事をするアサリを買うしかないかもしれない。

 

 




お読み頂き、本当に有難うございました!