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葉巻と、それを吸う愛しい人 episode-11

  キース達と会った翌日、案の定ジェシーが電話をしてきた。
「んもう昨夜どうして帰っちゃったのよ。デニスもキースも残念がってたわよ」
「ごめんごめん。でも私…」
「キース気に入らなかった?」
「ううん、良さそうな人だとは思ったけど……でも、本当に私男の人と付き合う気にならなくって」
「マリア…。あなたってなんか不思議ね。こんなに情が厚いのに男にだけ淡泊でさ。今まで本当に好きだなーって思う人いなかったの?」
マリアは言葉に窮した。まさかあなたのパパだと言うわけにもいかない。
「その内いつか出てくるわよ、きっと」
「ならいいけどさー。でもね、キースはあなたのことすごく気に入ったみたいだから誘いの電話が来るかもしれないわよ」
「やだ、電話番号教えちゃったの?!」
「そりゃ教えるわよ。今までだってこういう場合いつも普通に教えてたじゃない」
「…ま、そうだけど。でもたぶん掛かってきても断っちゃうと思う。先に謝っとくわ。あなたにもデニスにも」
「んもう〜手応えないなぁ」

 フランクと会う約束をしているのは、キース達と会ってから3日後であったが、マリアにはその3日間がこれまでに無く長く感じられた。なぜだかわからないが、フランクとの日々が現実ではなかったような気がしてきてしまったのだ。
これまでジェシーや同世代の男達と夜に食事をするような、そういう日常の方が余程長かったせいか、まるで昔の自分の生活に戻ってしまったような錯覚を覚えたのだ。あの、フランクに片想いしていた頃の生活に。

 フランクと気持ちが通じてからは、少なくとも週に一度は会ってキスされて抱きしめられるような幸せな日々が続いていたが、それでもまだたった数ヶ月間の話である。自分が長く過ごしてきた平凡な日常生活に比べたら、フランクとのことはすぐに夢だったのだと思ってしまうような、それだけ儚くて不確かな関係なのだと思った。フランクが自分に会おうとしてくれなければ即座に終わってしまうような、会い続けていられたからこそ現実だと実感できていたような、そんな関係なのだ。

 そしてたぶん……とマリアは不安で心細い自分の気持ちを解剖してみる。
もしかしたらフランクは、自分とキースが会うことを妬いて、引き止めてくれるかもしれないと思って期待していたのだと思う。でも実際には「ふうん」と言うだけで引き止められなかったことも、今、心が不安定になっている原因の一つなのだと思う。
そして、キース達と会った晩も、フランクとは何の約束もしてはいなかったが、心のどこか…本当に片隅の方で、ひょっとしたらフランクが会いに来てくれるような気がしていたのかもしれないとも思った。でも実際にはその日から今日まで、会いに来てくれるどころか電話をしてくれることも無かった。

 マリアと会っている時のフランクがあまりにも優しいので、マリアは自分が贅沢になってしまっていたのかもしれないと思った。
片想いをしていた頃はこんなに淋しい気持ちになることはなかった。会えないのも当たり前であったし、キスやセックスは妄想の中のことでしか無く、妬いてもらえないのは尚更当然であった。それなのにいつの間に優しくしてもらうのが当たり前のように思ってしまっていたのだろう。片想いの頃に戻りたいとは思わないが、こんな不安な気持ちを抱えるようになってしまったのも辛かった。
マリアは淋しさで心がどんどん不安定になり、もうこのままフランクに会えないような気すらして泣きそうだった。

***

 淋しくて淋しくて仕方の無い3日間を過ごし、ようやくフランクと会う約束の日が来た。
待ち合わせは、少し郊外にある店だった。マリアの家に直接来る時以外は、街はずれの店で会うことが多かった。どちらかがはっきり言うのでは無かったが、街中だと知り合いに会う可能性が高いことを警戒しているからだ。フランクが誰かと会うとまずいのは当然であるだろうが、マリアもまた、親友の父親とデートをしているというのがどれだけ悪いことかという自覚を持っているので、絶対に知人に会わないようにしなければと思っていた。

 マリアは最寄り駅で降りて店に向かっていたが、頭の中ではフランクに会えるような気がしなかった。会う約束自体は確かにあったが、現実感が無かった。
しかし、ようやく目指す店が見えて来た時   
ちょうど向こうから葉巻を吸いながら歩いてくるフランクの姿が見えた。マリアは思わず立ち止まって口に両手を当てた。
(おじさま……!)
本当に会えたのが奇跡のように思えた。
フランクも同時にマリアに気づいた。そして例の笑顔になって、両手を拡げる仕草をした。全ての不安を消し去るような、マリアの知っている通りのフランクであった。
マリアは思わずフランクに駆けて行き、その拡げられた腕に飛び込んだ。
「おじさま!!」
フランクもマリアを抱きしめた。
「やあ!…なんだかもうお前さんに会えないような気がしちまってたよ」
と、フランクはマリアが思っていたそっくりそのままのことを先に言った。マリアは驚いて、
「…本当?それは私の方が思ってたことだわ。私、おじさまとのことが全部夢だったような気がしちゃってたの」
と涙声で言った。それを聞いて、フランクは改めてマリアを強く抱きしめてキスをした。

 それから2人は予定通り店に入ったが、そこが照明を落とした薄暗い店で、L字型のソファ席に身体を寄せて座ったため、お互いに感傷的な気持ちがなかなかおさまらず、席でもキスを繰り返してしまうぐらいであった。

 フランクはマリアがマリアのままであったことに安堵し、自分の嫉妬や不安がだいぶ和らいだので、キースのことも普通の調子で切り出せた。
「火曜日はどうだったんだい?」
「…ええ、デニスは良さそうな人だったわ。あれなら安心よ」
と言ってマリアは微笑んだ。でもフランクが聞いたのはキースのことの方だとわかって、
「キースは…悪い人じゃなさそうだとは思ったけど…私本当に興味がないの」
と頭をゆるく振りながら言うと言葉を切った。そしてフランクの目を見つめて、
「…私…本当におじさまのことが好きなの…」
と言った。目の奥が熱くなってまた涙が出そうになる。
フランクは心からマリアを愛しく思った。
そしてマリアの頬に手をあてて、マリアが初めて聞く言葉を口にした。
「あたしもだ。…愛してるよ、マリア」
思わずマリアの目から涙が溢れた。フランクはそのままマリアの顔を引き寄せてキスをした。フランクはマリアを愛している自覚がとっくにありながら、ずっとそれを口にするのを躊躇っていたが、もう言わずにはいられなかった。

「今夜お前さんのところに泊まってもいいかい?」
食事が終わって葉巻を吸いながらマリアの顔を見て言った。マリアは驚きと嬉しさで一瞬言葉に詰まった後、
「…いいの?!」
と聞いた。
「いいさ」
フランクはちょっと困ったような、でも優しい笑顔で言った。

 今までフランクがマリアの部屋に泊まったことは一度もなかった。どんなに夜中遅くなっても必ず家に帰っていた。仕事で署に泊り込むことはしばしばあるため、自宅に帰らない事は不自然なことではないのだが、マリアのところに泊まるというのはやはり相当な罪悪感があり、必ず自分の家に帰ることでバランスを取っているところがあったのだ。
しかし、今夜はどうしてもマリアと朝まで一緒にいたいと思った。

 マリアはフランクと過ごしている時、それは外で会っている時ももちろんだが、特にベッドでフランクの腕の中にいる時に「そろそろ帰るよ」と言われると、毎回悲しい気分に襲われた。でもそれはどう考えても当たり前のことなのであって、仕方がないことなのだ、といつも自分に言い聞かせていた。
それなのに今夜は泊まってくれるという。朝までずっと一緒にいてくれるのだと思ったら、胸がいっぱいになるほど嬉しかった。
それから2人は、ワインと歯ブラシと翌朝のパンを買ってからマリアの部屋に行った。

 部屋に着いたのは22時過ぎだった。いつもならマリアは、もうあと数時間しかフランクと一緒にいられないと思って淋しくなる時間帯だが、今夜は違うのだと思うと心がリラックスして満たされた。
ソファに腰掛けながらフランクが、
「普段は仕事から帰ったらどうしてるんだい?」
と聞いた。マリアも隣に座りながら、
「うーん、まずメイク落として、シャワー浴びて…」
「じゃあそうしていいよ」
こんな普段と違う会話を交わすことも、マリアは嬉しく楽しく感じた。
「でも…メイク落とすの恥ずかしいな」
フランクの前で素顔になったことがないのでそう言うと、フランクは笑って
「全然変わんなそうだがね、今と」
と言った。マリアも笑いながら、
「褒められてるのか貶されてるのかわからないわ」
と言ったが、何となくシャワーを浴びている間もフランクと離れるのが淋しい気がして、急に切ない顔になり、
「おじさまと一緒に入りたい」
と言うと、フランクはマリアの腰を抱き寄せてキスをし「ああ。いいよ」と言った。
「…じゃあメイク落とすからおじさま先に入ってて」

 フランクがシャワーを浴びていると、メイクを落として服を脱いだマリアが恥ずかしそうにバスルームのドアから顔を覗かせた。
「おいで」
とフランクが言うと裸のマリアが入ってきた。その姿を見ただけで、フランクはすぐに下半身が熱く変化し始めてしまう。この数日間マリアが他の男の所に行ってしまうような苦しさを味わって、マリアの身体のことを何度も思い出していた。心からマリアを恋しく思い、激しく抱きたい衝動に駆られていた。
 出しっぱなしのシャワーの下でマリアを強く抱き寄せてキスをすると、
「んん…っ…!あ…んっ…!!」
とマリアが可愛い声を出すので、早くも欲情が振り切れる。マリアを壁に押し付けて、右手で首を抑えつけるように顔を固定させ更に激しく舌を絡ませる。マリアが自分だけのものだと思いたい気持ちがフランクを激しくさせてしまう。
そして胸を強く揉んで乳首に舌を這わせると
「あぁ…んっ!!だめ…!ん…っ!!はぁっ…は…あっ…おじさま…!」
フランクは左手でマリアの片足を開かせるように持ち上げて、右手の指を膣に入れるか入れないか位に微妙に焦らし、既に溢れている熱い液によって濡れた指でクリトリスを撫でた。壁に背中を付けて自分自身を支えていたマリアは、
「ああんっ!!…んっ…いや…!…だめ…!!あ…っ…もうだめ!だめ…!!イッちゃう…っ!!」
マリアはあっという間にイッてしまい、立っていられなくなりそうな所をフランクが抱き起こし、後ろ向きにしてバスタブの縁に手をつかせて、腰を持ち上げる。膣に指を深く入れ、フランクのよく知っているマリアが一番感じる奥の部分をいつも以上に強く刺激すると、
「いや…!!だめ…っ!!いや!…か…感じすぎちゃ……んんっ!!だめ…おじさま!イッちゃ…あっ…いやあ!!イッちゃう!!いや…ああぁんっ!!」
マリアのイク時の声が、フランクには本当に愛しくて堪らなかった。堪らなすぎていじめたくなる。
膝の力が抜けたマリアの腰を両手で持ち上げ直して支えながら、フランクは自分の固くなったものをイッたばかりのマリアの中に挿れた。何日も激しく欲していたマリアの中で熱く締め付けられて、フランクも意識が遠のくほど感じてしまう。
気持ちが良すぎて声にならない声が出る。腰を動かし始めると、
「ああんっ!!おじさま…いや…!!またあたっちゃう!!いや…っ…だめ!!」
「どこに?」
フランクが腰を激しく動かしながら聞く。
「んん…っ!!」
「どこにあたるんだい?」
フランクに言葉でも責められて、マリアは気持ち良すぎて頭の奥まで痺れてくる。
「お…奥の…ああんっ…!奥の感じちゃうとこに…」
「感じるとこに何があたるの」
「んん…ん…っ!おじさまの……あんっ…!だめ…!!イッちゃ…またイッちゃう!!や…あっ!!だめ…いやああんっ!!」
マリアが耐えきれずにイクところを見て、フランクもたまらずに絶頂に達した。

 それから2人とも呼吸が上がりすぎてバスタブに座り込み、顔を見合わせて少し笑った後、フランクに抱き寄せられたマリアは、息を鎮められるまでフランクの腕の中で目を閉じて最高に幸せだった。

 マリアがネグリジェを着てバスルームから出て行くと、フランクは上半身は裸のまま葉巻を吸っていて、ソファの背に腕を載せてマリアを眺めている。
「きれいなネグリジェだね」
「ありがとう。『ダイヤルMを廻せ!』のグレース・ケリーが着てたのに憧れて買ったの」
フランクはちょっと笑って、まだマリアを見ている。マリアは赤くなって、
「素顔だと恥ずかしい」
と両手で顔を半分ぐらい隠しながら言うと、
「そっちの方がいいぐらいだよ。もっとよく見せて。さっきは興奮しすぎてよく見られなかったから」
と言いながら腕を広げた。マリアはそんな風に言ってくれることが嬉しくて、フランクの膝に跨って首に抱きついた。フランクはマリアの背中を抱き、
「あの晩みたいだな」
と言ってマリアにキスをした。
あの晩    
マリアはあの晩があって本当によかったと思う。あの晩が無ければ今もフランクに片想いしていただろう。
「おじさまもあの晩のこと思い出してくれるの?」
「あの晩のことを思い出すと今でも眠れなくなっちまうぐらいだよ。お前さんが本当に可愛くていやらしかったからね」
と言ってまたキスをした。マリアは赤くなりながらも、泣きたくなるぐらい嬉しくなった。

 それから2人でワインを飲みながら、テレビでやっていたコメディドラマをのんびり見た。マリアはもともと笑い上戸なのでよく笑うが、今夜はフランクといつまでも一緒にいられるという安心感から、いつもより楽しくてたくさん笑ってしまう。フランクはそんなマリアが可愛く見える。明るくて気取らない、いい女だと思う。
その時またおかしいシーンがあり、ちょうどワインを口に運んでいたマリアが吹き出して口からワインがこぼれた。フランクはそっちの方がおかしくて大笑いした。マリアも笑いが止まらない。
「やだもう!助けて」
とマリアが顎から首にこぼれた赤ワインを手で受け止めながらサイドテーブルのティッシュを取ろうとした時、フランクがマリアを抱き寄せて首に伝うワインを舐めた。マリアは一瞬で感じてしまう。
「あんっ…!」フランクは首から顎のワインを舌で味わって、マリアの唇を吸った。

 それから2人はまたベッドでとろけるような熱いセックスをして、身体の内から溢れ出すような心地よい余韻を感じながら、初めて朝まで一緒に眠った。


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