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アクティビズムを持続可能にする3要素〜気候ムーブメントからの教訓〜

以前、SSIR(Stanford Social Inovation Review)の記事をもとに、燃え尽き症候群と社会運動について書いた。以来、SSIRをチェックするのが日課(というほどでもないけれど…)となり、先月末、興味深い記事が出てきた。

タイトルのように、この記事によれば「気候ムーブメントは、より公正で健康的な世界の実現を目指す全ての社会活動家への教訓を持っている」らしい。
というのは、「昨今の気候ムーブメントでは活動におけるメンタルヘルスケアを重視している」からだという。

社会運動に関わる多くの人々は、一度は考えたことがあるだろう。
「この活動に、どのような態度で取り組むのか?」
「どうすれば、私たちは自分たちの活動を持続可能なものにできるだろう?」
と。
今回はその問いのヒントを得られた気がしたので、簡単にまとめてみたい。

気候ムーブメントからの3つの教訓

0. 気候変動とメンタルヘルスの関係

  • 異常気象や海面上昇、氷河の融解などは、人々に苦痛やトラウマ、そして特に若い世代に対して将来への不安を引き起こしている。また、多くの人々は、自分自身が環境破壊や生物多様性の損失に関与しているということに関して苦悩を覚えている。

  • 気候危機とメンタルヘルスの問題は不可分。気候変動やメンタルヘルスの課題に対する包括的な行動計画がなければ、社会や人々にとって耐え難い負担となり、メンタル疾患や道徳の危機を引き起こす。

  • 気候危機とメンタルヘルスの問題は、それぞれ別個の問題として人々の関心を集めているが、これらの問題に関与するリーダーの一部は、メンタルヘルスと気候危機を一つの問題として統合し、優先順位を高めようとしている。

1. 活動に際して生じる感情を無視せず、乗り越える。

  • 気候危機への不安や怒り(Climate Emotion)は、適切で有効。なぜならば、これらの感情は、実際に社会問題への関与につながっているからである。

    • 例:未来への恐怖を感じた子どもたちによる気候変動対策強化の訴え

  • 他の分野で活動する場合も、活動中に不安や怒りを感じることがある。自身や仲間がどのように情緒的な影響を受けているのかを知るのを避けたり無視したりせず、仕事に際して感じた複雑な感情を認め、消化し、乗り越えるスペースを作るべき。そうすることで、人々がバーンアウトになることを防ぎ、再び関与できる道筋をつくることができる。

2. 実践を統合する

  • 世界の不正義を目撃したり、世界中のさまざまな苦しみや気候変動の壊滅的な影響に常にさらされたりするのは、道徳的にも精神的にも消耗しがち。

  • 気候危機とメンタルヘルスの問題の統合を試みる運動では、さまざまな文化の実践者が、活動の中で傷を負った人々を癒せるよう、活動の一環として、芸術的・精神的統合のためのスペースをつくることに取り組んでいる。

  • 自分自身と他者をケアする多様な方法は、あらゆる社会問題にとって重要。それぞれのコミュニティで伝統的(心理学など)および非伝統的な形態(文化に根ざした癒しなど)の支援が望まれる。

3. 世代を超えた交流を

  • 経験の共有や対話は、世代間の溝を埋める強力な方法であり、私たちが関心を持っている問題全体の長期的な変化を見るために必要。

  • 世代間のつながりや責任感を育む機会を、学校や地域コミュニティ、社会変革プログラムに組み込むことで、世代間の溝を埋め、現在および将来世代に対する共通の責任を形成することができる。

    • 例:Climate Cafe

      • 気候変動の複雑な現実に対処しようとしている個人に、安全で、思いやりのあるスペースを提供。

    • 例:Force of nature

      • 年齢層を超えて人々が集まり、気候変動に関連する複雑な感情を処理するオープンソースで思いやりに基づいた協力的な場。

結論

  • 活動家は、社会情緒的資源として機能する協力的なコミュニティの一員になることで、自分たちのウェルビーイングを維持し守ることができる。

  • メンタルヘルスの視点を組み込むことは、現代の重要な社会問題に取り組むのに役立ち、また、自身や他者への配慮を後回しにする規範や文化から逃れることにも役立つ。

  • すべての人にとってより良い世界を築くには、自身の主張に取り組むだけでなく、他の社会課題に取り組むグループの行動を認識し、彼らの経験や成功から得た洞察を活用して、新しい形の変化を推進する必要がある。

怒りや悲しみ、苦しさを、共に乗り越える

以上、意訳ではあるが、記事の要旨である。
海外の気候ムーブメントの動きだなぁというのが第一印象なものの、実際、COPの現場には、気候危機とメンタルヘルスに特化する団体がいたり、不正義が維持されるような交渉にメンタルブレイクしてしまうメンバーに寄り添うケアパーソンを設けている団体もいたりしたので、内容はすんなりイメージできた。

ひるがえって、日本はどうだろうか?
私が知らないだけかもしれないけれど、日本の気候ムーブメントからは、なかなか想像しづらいのが正直なところだ。

「メンバーの気持ちを大事にしよう」という意識は、私が関わり始めた2019年頃からあった。けれど、なんだかんだ気持ちを「聞く」だけにとどまってしまい、「大事にする」まで到達できていなかった気がする。気をつけようと思いながらも、上述の記事にある通り「自身や他者への配慮を後回しにする文化」の一端を私も担ってしまっていたので反省は尽きず、私自身もバーンアウトの当事者になってしまった(私の場合は、原因は社会運動だけではないけれど)。
でも、「聞く」までにとどまってしまったのは、私たちが仲間の気持ちの「消化」を手伝い、共に「乗り越える」術を知らなかったからのように思う。

社会課題はハードだ。仲間に構っている時間なんてないかもしれない。
それでも、やはり仲間を大事にしていくべきだと思う。
仲間の痛みを避けるのではなく、共に「乗り越える」方法を、身につけたいと思う。
仲間の怒りや悲しみ、苦しさを、一人で抱え込ませない風土が、社会課題に関わる人々の間に広がりますように。


※トップ写真:箱根芦ノ湖西岸の森にて。

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