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99回の好きと2回目のプロポーズ ーショートショートー

私は割と裕福な家庭で育ちました。
父は古い人間で厳格。母はそんな父を献身的に支えていました。
一人娘だった私は二人の愛を一心に受け育ちました。
そんな私が駆け落ち同然に家を出て行ったことは、両親には受け入れ難い事実だったと思います。

私が駆け落ちするほどに惚れた方との出会いは、21才でした。
初詣に行った時、草履を履いていた私は転びそうになり、思わず隣の方のコートの袖を掴んだのです。それがヒロシさんでした。
彼は「どうぞそのまま袖につかまっていて下さい」と言ってくれました。男性の顔を間近で見たのは、これが初めてでした。

その日以来私達は、毎日のように会いました。二人が出会った神社、カフェや映画館。
何度も観た映画は「ローマの休日」でした。
スクリーンの二人に、自分達の境遇を重ねて観ていたのかもしれません。
お会いして半年が過ぎた頃、ヒロシさんは私とのお付き合いを真剣に考えてると言ってくれました。
私の運命は動き出したのです。

両親は、少しずつ変わって行く娘に気がついていました。
私は両親にヒロシさんの事、そして結婚を考えている事を伝えました。
「まだ若い」と、反対されるのは分かっていましたが私は真剣でした。
それから一週間後、私は家を飛び出しヒロシさんのアパートへ行ったのです。彼は驚きながらも私の決意の程を理解し、その日私達は初めて結ばれたのです。

気がつけば二人で半世紀を過ごしていました。ヒロシさんの様子に異変を感じたのは5年前の73才の時です。
同じ事を何度も聞いたり、食事をした事を忘れたり、所謂痴呆が始まったのです。
周囲は施設への入所を勧めましたが、私は現実のヒロシさんを受け止め、誰よりも愛してくれたヒロシさんの側にいる事を選んだのです。
ある日突然「アン、好きだよ」とヒロシさんが言いました。暫く考えましたが「ローマの休日」のアン王女の事ではないかと思い「ジョー、私もよ」と言うとキスをしたのです。
それから毎日「好き」と言われているうちに、私はまたヒロシさんに恋をしていました。

二人の思い出の映画を思い出してくれた事が嬉しくて、ビデオを買って時々二人で観ました。
映画を観ていると、あの頃の私達が甦ってきました。貧しいながらも、私は小さな幸せの中でヒロシさんという大きな愛に包まれ、守られていた事を思い出しては、泣いていました。
そんな私にヒロシさんは「泣かないで、僕の王女様」と言うのでした。

別れは突然やってきました。
夜中にヒロシさんの声で目が覚めたのです。
駆け寄ってヒロシさんの顔が見えるように明かりをつけました。
「マチコさん、結婚しよう」と。
私が迷うことなく「はい」と返したら、弱々しく微笑み、静かに長い眠りにつきました。
ヒロシさんが最後に言ったその言葉が、丁度100回目でした。

私は今も彼がいた部屋に向かって「ヒロシさん、好きです」と言っています。

(文字数1,174)

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いつもお世話になっているピリカさんの企画へ、ハート♥️を込めて記念参加😊
へっぽこSSしか書けないcofumiです!?笑
今年にありがとう!来年に宜しく!

#冬ピリカ応募  
#ショートショート  #掌小説 #小説 #物語 みたいなもの

書くことはヨチヨチ歩きの🐣です。インプットの為に使わせていただきます❤️