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掛け替えのないグレイ

朝5時、空を見た。

夜を愛している。
仕事を終えて、帰ってひといき(または昼寝)をして
夜にはぐんと、元気になる。
わたしが植物ならば、きっと夜に光合成をする。
夜の養分を、エネルギーに変えて生きてゆける。

夜は、いずれ朝になる。
夜の続きの、朝が好きだ。
いつでも、松屋の牛丼の気分になる。
19歳のわたしが、ぴょっこりと顔を出す。
深夜のスタジオ、角の松屋。何を話したかもう覚えていない。
牛丼を食べて、帰る朝が好きだった。

何歳になっても、夜更けの朝の、少し浮足立つ感じは変わらない。
これから眠る。
でもきっと眠れない。

ぐんと話し込んで、朝になってしまった。
これも、あのころみたいで懐かしい。
わたしたちは夜な夜な、Skypeで話し合った。
わたしたちは、江戸川コナンと灰原哀みたいだった。
実年齢が高校生のあのふたりより、まあうんと幼い感じではあったけれど
理解者で、共犯者だった。

もう、懐かしさでしか生きてゆけないのかもしれない、と思う。
それは言い過ぎかもしれないけれど、懐かしさに生かされているわたしがいる。

空は、グレイだった。
うんと、グレイだった。
ぼんやりしているのに、夜はもうここにはいなくて、朝というには曖昧すぎた。
グレイの空。

鳥が一羽、飛んでいった。

北海道に越した彼女は、近年鳥にも詳しい。
届く写真の裏には、鳥の名前が書いてある。
「一羽だけ、違うのがまざっているのだけれど」なんて書いてあっても、区別はできない。
彼女なら、あの鳥の名前がわかるだろうか。

数年前まで、花はすべて花だった。
紫陽花と、向日葵と、バラと、まあそれくらいの名前は知っている。
鳥でいえば、カラスとスズメとハトとか、そんな感じ。

花を好きになって、ひとつずつ名前を覚えた。
永遠に初心者の域を出ないとは思うけれど
花屋さんを訪れると、季節の変わりを感じられるくらいにはなった。

ああ、無知とは恐ろしいな。
なにも知らなければ花はすべて花で
鳥はすべて、鳥なのだろう。

無知は物事を大枠で囲うような気がする。
男とか女とか、日本人とか、若者とか、

そうじゃなくて、ひとつずつに名前があって、ひとつずつが違うんだ。
見ればぜんぶ、犬は犬かもしれないけれど
種類が違って、そのひとつずつには名前があって
「盲導犬の訓練を受けたから吠えない」のではなくて、
オーちゃんはきっと、心優しいから吠えないんだと思いたい。
少なくとも、盲導犬の道を歩もうとする資質を持っていたのは、犬だからとかその犬種じゃなくて、オーちゃんがオーちゃんだったからなのだ。

グレイの空を、見つめている。

見つめていると、雲が少しずつ流れてゆくのがわかる。
試しに、1分ほど動画を撮影して、早送りしてみたら驚いた。
小さな画面上で、何センチも雲が動いていた。
変わりゆく空、同じなんてない空。

「グレイの層」という短編小説を、思い出す。
彼女が言いたかったグレイって、こういうことかもしれないと思って読み直してみたけれど、なんだか違う気がした。
もう、確かめるすべはないけれど

グレイは、彼女のことを思い出す。
その、グラデーションのことを
白でも黒でもなくて、大枠で語るのではなくて、オーちゃんは犬だけどわたしたちにとっては特別な存在で、掛け替えのないことを

鳥も花も犬も、みんなそれぞれの色彩を有していることを
そして、それはわたしも

明朗な答えを求めてしまう心を、ぐっとおさえて
掛け替えのないグレイであることを、思い出している。




※「グレイの層」サンプルで読めます

※彼女のこと

※オーちゃんのこと




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