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オチビと休日

休日の、午前中に起きて歯を磨いた。
そうしたらもう充分な気がしてしまって、ソファーに沈んだ。

もう少し早く起きるつもりだったのに、という気持ちもあったと思う。

いまと、ささやかな自己嫌悪のはざま。
寝過ごしたならば、すぐに動けばいいのに。
なんていう正論で、世界が回っていったら苦労しないのに。

「すきな曲を流して、げんきを出してもいい?」

「いいよ」と言われたら、選ぶ曲は決まっていた。

春は桜よ
夏は睡蓮さ
秋の夜長 金木犀ね
冬の日は梅かな

森山直太朗 feat.内田也哉子,ハナレグミ,OLAibi "ロマンティーク"

安野モヨコせんせい原作のアニメ、”オチビサン”の主題歌。
ほんの数分のアニメに、ほんの数秒くっついているこのエンディングが、ずうっと耳に残っていて
最近になって、ようやくこの曲の全貌が明らかになって、嬉しくて、ときどき聞いている。

「いい曲だね」と言われてまた嬉しくて、そのままアニメ”オチビサン”の1話を流した。

「すっかり春だ〜!!」

セーター1枚で春を謳歌するそれが、オチビと豆粒町のすべてかもしれない。

四季折々の、こまやかな
ふとしたら忘れてしまいそうな、自然のひとつひとつが、”オチビサン”には込められている。

”ハッピー・マニア”、”シュガシュガルーン”、”働きマン”などのヒット作を生み出した、安野モヨコ先生が休業していたことを知っている人は、それほど多くないのかもしれない。
休業中に描いていた、唯一の漫画が”オチビサン”だった。

そしてそれは、同年代に走り続けた同士に贈られている。
”ハッピー・マニア”や、”働きマン”と同年代で、走り続けたけれど、いまは少し仕事を休んでいる、という人が多いことに気がついてーーー「気持ちが安らぐオチビサンの言葉」という本には、モヨコ先生のそんなコメントが添えられていた。

”オチビサン”は、走り続けて取りこぼしたひとつひとつを、もう一度確かめにゆくような物語だと思う。
パンパンに詰まってしまったポケットには、もう何も入らなくて
そこに、少しずつ穴を開けて
その隙間に、季節の花と匂いと、豊かな甘さを詰めてゆく。


画面の中ではしゃぐオチビの姿を見ながら、お湯を沸かしてコーヒーを入れた。
保温機能のついた水筒にそのまま淹れると、なんとずっと温かい!
おうちで水筒を使うと、すてきな気分になれるんだ。
なんて言ったら、オチビは「それは大発見だね」と、目を輝かせてくれるだろう。

「ついでに、ベランダでお菓子を食べよう」と言いながら、君はコーヒーに牛乳と砂糖を浮かべてゆく。
「牛乳より先に、お砂糖を入れなきゃ溶けないよ」と、ナゼニが言うだろう。
「牛乳もあっためちゃえばいいんだよ」と、パンくいはなぜだか誇らしげだ。

それから、洗濯機に洗濯物を放り込んで、シャワーを浴びた。
もちろん、着ていたパジャマも忘れずに洗う。
からっぽの洗濯カゴは、少し嬉しい。
すべての窓を開けて、掃除をする。

おまえ、小松菜は食べられるのかい?

おじいの、そんなひとことにもなぜだか泣けてしまう。
人生にはときどき、優しいことにも泣きたくなるときがある。


それから、
パンを吸い込むパンくいの、甘い匂いを追いかける姿や
オチビの、”電車を追いかける習性”を見つめながら

ああ、良い日だな。と思った。

冬の、ぎゅんと冷たい風がすり抜けて
コーヒーはまだ温かで
気持ちは、ゆるりと適温で、甘やかな感じがした。




まだ少し、仕事を休んでいる。
うまいこと、会社に行けていない。

放っておけばそれだけ、トゲを増すような心に、オチビが遊びに来てくれた。
モヨコせんせい、オチビサンをこの世界に送り出してくれてありがとう。
わたしの元にも、この街にも、オチビが来てくれて嬉しい。
そのことを伝えるために、手紙を書こうと思ったのだけれど

その前に、noteを書こうと思った。
春を待つ、優しいすべての人たちへ
ポケットがいっぱいになってしまって
心のトゲを育ててしまっている人たちへ

この物語が届きますように。


2024年2月10日 ねる



▼原作10巻セットを、おうちに迎え入れることが夢です

▼一足先に、こっちを買った。ぺらぺらとめくりながら、噛み締めている
(Amazonは定価出品がなかったので、モヨコせんせいの公式通販サイトへのリンクです)

▼実はこれも買った!!そろそろ使いたいな〜!!(こちらも公式サイトで購入。うれしい)

▼タロット占いをするわたし

▼後ハピ4巻の感想文

▼今年も、モヨコせんせいのカレンダーなわたし


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