やたらと美しい思い出
今日は雨だった。
重たい身体を引きずって、コンビニで印刷を済ませて、町田に着いたのは13時10分。
最近、打ち合わせの45分前くらいに着いて「コーヒー飲んでます」っていうと「早いね!」と言われるのだけれど、予定がないときは1時間くらい早めに着いてコーヒーを飲みたいので、実はいつも遅刻している。今日も、そう。
改札を抜けて(いつも、何口から出ればいいか迷う)辿り着いたスターバックスは満席だった。
遅刻のうえ、満席。身体は昨日の疲れも抜けきらず重い。待ち合わせまでは半端な時間、どこかで時間を潰さなくては……仕方がない、待ち合わせ場所から少しだけ離れるけれど、西友のほうのスターバックスへいこう。あそこなら、雨にもほとんど濡れずにいけるはずだから、と自分を励ましながら、満身創痍で歩き出す。
わたしってばすぐ、身勝手に、満身を創痍させてしまう。勝手に四面楚歌。志の高いフリをして、欲張って傷ついて、ばかみたい。
ドーナツだった
お土産みたいな、それこそよくあるような”出張や帰省を偽装”できそうな銘菓にまぎれて、それはまごうことなきドーナツだった。
ドーナツの、真ん中の空洞部分に、うさぎさんの顔が埋まっている。
ああ、わたしはアレを知っている……”店”の差し入れで、何度か食べた気がする……
わたしが今でも、我が物顔で”店”と呼んでしまうのは、務めていたライブハウスだけだ。町田の西口にあって、6,7年ほど通っていた。
通わなくなって、もちろん7年以上経っているのだけれど、あのときの記憶は色濃い。
よく、差し入れをもらって(わたし宛てじゃなかったけど)、店宛てみたいなのはみんなで食べた。みんな、甘いものが好きで。ライブハウスに似つかわしくない”ホットコーヒー”というメニューは、コーヒーメーカーに一度に3杯くらい出すから、よく余って。残ったやつを飲んだりしながら。あの日々の記憶の何割かは、おやつと、談笑でできている。
もちろん、務めているときは文句もたくさんあった。休みも休憩も取りづらかったし、繁忙期の3月と8月と12月は地獄みたいな日々だった。早く帰りたいのにお客さんがいるからバーカウンターで待機していたあの時間が、つらいときもあった。
けれども、失恋したときに頭を撫でてもらったのも、周りが結婚して焦っているとき「音楽家として勝ったのは君のほうだよ」と妙に励まされたり、煙草をキャスターマイルドからアメリカンスピリットに変えたのも、店での出来事だった。
男と一緒に捨てたキャスター。あの夜のことは、今でも覚えている。
あの、色濃かった日々を、懐かしく、美しく思う。
時間と共にイヤなことが消え去り、「楽しかったなあ」と思う。わたしは本当に身勝手だ。当時の友達に会ったら「辞めたいって言ってたじゃん」と、笑われてしまうかもしれないけれど。
帰れるものなら帰りたいかと言われたら、もしかしたらそうかもしれない。
けれどもそれは、帰れないとわかっているから、「帰りたいほど美しかった」なんて言いながら、よよよと泣いたりするモンだ。
実際に帰ったら、「アーッ、こういうとこがヤだったンだ!」と思い出して、怒り出すに決まっている。わかっている。
わかっているよ、と、もう一度頷く。あの頃はなかった、花屋の前を通って。雨を越えて、西口を目指した。
※now playing
※あのときの出会いに、生かしていただいた話
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