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ジャズトロンボーンのベストスリーは?

これは、ジャズトロンボーンに興味がある人向けの原稿です。

まず大前提。ジャズトロンボーン奏者の最高峰は、Jay Jay Johnsonと Curtis Fullerの二人。
これは揺るがしがたい結論である。

では三人目の男は誰か?というとこれが難しい。
(この話、僕20年くらい言ってるなあ…)

J.J.とCurtis Fuller

そもそもJ.J.とFullerの御大二人。
ジャズトロンボーン界の両雄だが、この二人が他のジャズ・ミュージシャンと比べて演奏が傑出していたか。
聴き込めばうまいプレイヤーは他にも沢山いる。
ではこの二人が傑出している理由はジャズの「名盤」への参加率が高いから。

学術の世界のIF(インパクト・ファクター)みたいなもん。
圧倒的にこの二人は他のトロンボーンよりIFが高い。
学者としての頭の良さ(うまさ)よりもどれだけ多くの影響のある論文を書いたか(レコードに参加したか)……みたいなもんである。

そりゃあ、ビバップ時代のJay Jay Johnsonは他の追随を許さず一線級のバッパーと共演しうるトロンボーンは彼だけ。
完全に独占企業といってもよかった。
ハードバップ時代のCurtis Fullerだって同様で、あれほどアルフレッドライオンに愛されたトロンボーンもいるまい。

ただ、Jay Jay Johnson、Curtis Fullerの二人とも、デビューしてから死没までおおよそ途切れずに活動を続け、アルバムも継続して出しているとはいえ、メジャーなシーンからはJ.J.は50年代以降はほぼ消えたしCurtis Fullerにしても60年代以降第一線から姿を消した。
そして単純にトロンボーンを吹く能力だけなら巧者は意外にいるのだ。

ベストワンは?

J.JとFullerのどっちが優れたプレイヤーであるか?という問いはすごく不毛なので、私は考えないことにしています。
ティラノサウルスとアパトサウルス(ブロントサウルス)どっちが強い?みたいな話で、時代が違うから直接対決はできない。

マイクなしだったら多分J.J.の圧勝かも。
アドリブの表現を抜きにしてアルバム・曲の作り込み、アレンジなどの総合力でもJ.J.が上回るかも…とも思うけど、その評価軸まで広げるとKai Windingも意外に伸びてくるんだな。

第三の男

二点に一点をくわえ三点になると平面を構成することができる。
三人めに誰をもってくるかによって、その人のジャズ観が透けてみえる。
(だから皆三人目をあえて挙げないのかもしれない)

Tommy DorseyもしくはGlenn Miller

三人目にこのどちらかを持ってくるなら、100年単位でジャズを眺めている評価軸だと思う。1940〜70年代の「モダンジャズ」をさらに広角で眺めると、この二人になる。
ジャズトロンボーンはモダンジャズ以降ややマイナーな地位に堕してしまったが黎明期には中心的な役を担う花形楽器だった。
トロンボーン奏者であり、商業的にも成功したバンド・リーダーのリーダーである二人。Tommy DorseyもGlenn Millerもスウィング時代の超有名人。
さらに時代を遡ると、キッド・オリー(Edward "Kid" Ory)もランクには入ってくるかもしれない。

Tommy Dorseyは日本ではそれほど知名度は高くないが、後世に及ぼした影響は大きい。一方商業的な成功の点ではGlenn Millerが勝るかも。
映画「グレン・ミラー物語」もあるしね。
ただこの二人はバンド・リーダーとしての業績が主。
トロンボーン特に、ソリストとしての活動の強度は弱い。
メロディ・メイキングはむちゃくちゃうまいけど、後世の評価軸でいうインプロバイザーではないのだ。残念ながら。

Jack Teagarden

トラッドを含めて、「バンド」でなくトロンボーンの個人技で言えば、ジャック・ティーガーデンも一角を担うのかも。ルイ・アームストロングと組んで共作をいくつか発表しているが、むちゃくちゃうまいと思う。僕も好きです。

Frank Rosolino

もしフランク・ロソリノを持ってくるなら
「バップのJ.J.、ハードバップのFuller、ウェスト・コーストのRosolino」という括りでおさまりがいい。
ただ、前二者に比べると活動範囲においてやや見劣りはする。
ロソリノを三点目にして構成した平面は、「モダン・ジャズ」のみの「ジャズ喫茶おやじ」史観になっちゃうんだよな。

Carl Fontana

アドリブソロの節回しの速さ、滑らかさ、という意味では随一だと思う。が、ジャズ喫茶で聴ける「ジャズ名盤」への参加という点ではインパクトが少ない(メイン・ストリームでの活躍が少ない)。

ただ「モダンジャズ」というアーカイブの中で音源を漁る範囲においては、Carl Fontanaを第三の男としても差し支えない気はする。
それくらいインパクトはある。

Urbie Green

ジャズじゃない名盤への参加率がかなり高い。スタジオ・ミュージシャン的な参加がおそろしく多く、そしてうまい。
後世への影響力は大きい。ジャンル問わないトロンボーン・プレイヤーとしても隠然たる影響力があったようです。
ひょっとしたら参加したアルバムの累計販売枚数ではトロンボニストの中では世界一かもしれない。

ただ、活動がジャズに限定されていないところ、リスナーにとってはAnonymousである活動が多い点が、ネックかも。
玄人うけなんだよな。
ジャズ研出身のジャズやスタジオ・ミュージシャンとして活躍している先輩、なら、Urbie Greenを推すような気がする。

Slide Hampton

テクニックもうまい。
アルバムへの参加も含めて、バランスのとれたミュージシャン。
また、この人は、ウィントン・マルサリスよりも20年前からマルサリス的なジャズそのものの啓蒙活動をしている(世界ツアーとか)。
ただマルサリスに比べブランディング戦略は弱かった。時代が早すぎたのか。
プレイヤーとしてはかなり好きなスタイルだし、結構重要な作品にも足跡を残している。

Steve Turre、Conrad Herwig

この二人は全然出自も違うけど80年代以降のコンテンポラリー・ジャズにおいて重要な役を果たしている。
とはいえ「ジャズ・シーン」という大枠でくくられずジャンルがたこつぼ化した時代の活動だから、誰もが知っているという存在とは程遠い。
ポスト・モダンなんだよな。だから、ジャズの歴史を大きくとらえた中でのオールベストという感じにはならないか。
ただ、テクニック的には両者とも素晴らしい。
ただし、2000年代以降さらにテクニックを磨き上げた若手が無数にいたりするのである。技術水準の上昇カーブの曲がり際に居るのがこの二人だ。

Fred Wesley

カウント・ベイシーオーケストラにいたことあるらしいし、自分のアルバムではファンクだけでなくジャズナンバーも結構やっている。でもまあ、ファンクやん、と言われてしまうわな。

Trombone Shorty(Troy Andrews)

久しぶりにトロンボーン奏者でメジャーな人気を博しているプレイヤー。
大スター。まあしかしFred Wesley以上にファンク・ヒップホップであり、ジャズではないか……でも、ジャズも絶対うまいはず。
もうちょっと中年になったらジャズのアルバム出しそうな気もしますけど。
あと、トランペットも吹くのでトロンボーンプレイヤーと言いにくいのもある。

Bob Brookmeyer

「ジャズ・バルブトロンボーン奏者」枠だと完全にこの人はオンリーワンなんですけれども……
活動歴も長いし、ジャズに対する貢献も、アドリブのフレージングもかなりオリジナリティがある。
ビッグバンドアレンジなども手掛けているが、かなり音楽的には深そう。いただ、一般的な知名度は結構低くちょっとマニアック過ぎるかも。

結論:三位タイが多すぎる

逆にいうと、第三の存在を探せば探すほど、ベスト2の二人の存在がゆるぎないことが判明してしまう。
第三の存在は、自分のジャズ観にも関わる問題で、踏み込みにくい。
トロンボーンプレイヤー、ベスト第三位は、皆の心の中にとどめておいた方が、丸くおさまる気がする。やっぱり。

追記:

ChatGPT 4.0で同様の質問をしたところ、J.J.Johnson/Curtis Fullerに加えて、Tommy Dorseyという答えでした!やっぱグレンミラーじゃなくて、ドーシーか……


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