女子と女の境目

 ひっさしぶりにやって来た6年女子。歯科矯正器具を付けた口を尖らせ、「ちょー、きぃてぇーやー」とぶつぶつ言い出した。唇の荒れが気になる。
そこから愚痴、愚痴、愚痴。誰のかというと、先生の…だ。で思いっきり先生を敬称略で呼び捨てにする。舌を巻く。こんな子じゃなかったのに…大分お怒りの様子だ。
 内容は大して怒るようなことでもなかった。彼女自身、己の非も認めていた。しかし素直に謝るのも納得いかないらしい。先生の態度、物言いに、怒り狂っていた。
 あまりにも呼び捨てと巻き舌が怖いので、直接そう言った。
「謝った方が勝ちやで」
 軽くいなすが、「絶対謝らん!」と断固拒否。
 隣で話を聞いていた、普段は大人しく、真面目な女子が、思いがけず便乗して来る。既に転勤して、今はいない去年の担任のことを、静かに愚痴り出したのだ。
「あれは最早、先生じゃない」
 冷静且つ、大分きっつい一言。
 話によれば、自分の感情で児童に八つ当たりしたらしい。そんな風に見えたことはなかったので、意外だった。
小学生も高学年になると、シビアに目を光らせている。今回口に上ったのはいずれも若い女の先生だった。彼女たちにとったら、既に同等の感覚なのだろう。
 自らの小学生時代を思い返す。私は6年間で一人も、尊敬できる先生に出会えなかった。しかし、陰口であれ、先生を呼び捨てにする力はなかったな…。嫌い過ぎて、その背中を思いっきり睨みつけるようなことはあったかも知れないが、力のある大人に対する、貧弱な抵抗でしかなかった。
 彼女は一頻り捲し立てた後、それでも物足りなかったように、ぶつぶつ言い続けながら去って行った。すっきりしたのか否か…。多分していないだろう。
 取り敢えず、愚痴れる大人に選ばれたことにだけは、有り難いと受け止めておこう。そもそも〝大人〟だと認識してくれているかも怪しいが…。

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