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選歌 令和5年9月号

奴隷にはなりたくないと思ひつつ長く追ひ来ぬこの韻律を
臼井 良夫

孤独感ふかめて過ぎし四年間こんな時代に生きてしまった
児玉 南海子

校正に使へと君の買ひて来し鉛筆をもて挽歌をつづる
高田 香澄

流し目でキリンは首をしゅっとして見物人を見物してる
髙間 照子

土産箱の陶人形を開け見れば手の跡、ぬくみ、ほの明かる頬
橋本 俊明

アナベルとふ白きあぢさゐ咲かしめて語らずもよし一つの矜恃
渡辺 茂子

山積みの雑誌カタログを片づけて風を吸うごと心太食む
山口 みさ子

「ごめんね」を言ふタイミング失つて水上げできない白き紫陽花
岩本 ちずる

緑萌ゆ食糧難に摘みし雑草くさ美味しき想いのなくも懐かし
上村 理恵子

野の花の爛漫に咲くブラウスの見知らぬ人に声かけていた
小笠原 朝子

君の名を口にするのは許されぬ胸のうちでも呼んではならぬ
鎌田 国寿

青年ら船尾を岸に寄せ付けてランプを灯す真昼の川に
清水 素子

嫌な夢見ながら呟く夢の中「起きたら平気  これ夢だから」
高橋 美香子

難聴の俺だと知つて大声で言つてる外科医どこかおさなし
高貝 次郎

一、二食抜きても死なぬ孫の意地その頑固さをなかば楽しむ
成田 ヱツ子

新幹線二時間半の自由なるこの刻いつも至福の刻なり
松下 睦子

明日から妻の介護とライン来て友はそれから連絡つかず
浦山 増二

亡き母に貰い育てる紫陽花を慈しみつつ三十五年
奥井 満由美

本心を少しも見せぬ若人よ君の行く手に大地は有るか
木下 順造

スカートの襞一本いっぽんに緊張ただよう吹奏楽コンクール
国友 邦子

大福に指先白くよごしつつ狭山の新茶味わう三時
髙橋 律子

世を厭ひ天をうらみし日もあれどけふがためなる命なりけむ
石谷 流花

解体の工事が終わり明日からは又新築の工事が始まる
田中 章

永らえて居るも倖せと思わせて青葉の風が背を撫でてゆく
西出 清子

小二生われにひと言「先生は何時代の人?」昭和も遥けし
西原 寿美子

AIが若者たちの仕事する  取られて悔しいはないちもんめ
南條 和子

雨は止み風で膨らむカーテンは忘れてしまえと囁き続ける
森崎 理加

有り難いいつものように食べて寝て八十八はまだまだ笑う
森本 啓 一

生返事ばかりの君たちいいか聞け 牛乳飲むのか麦茶飲むのか
渡邊 富紀子

吹く風は何思わんかピタと止み気がついたように又吹き始む
成田 すみ子


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