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選歌 令和5年4月号

恒例の第九聴きつつこの年もとどこおりなく早終えんとす
財前 順士

追ひ焚きのボタンを押した熱い湯にあなたのゐない時空を生きる
高田 香澄

他の人の役に立つとは生くるための杖を手にいれ歩むに似たり
高田  好

夏豪雨あり洗はれて古滝の恥しきまで白き岩組み
橋本 俊明

夕日浴ぶる母と児の背ひっそりと黄昏時の影となりたり
松下 睦子

夕さりてまた降りだしぬしらじらと雪はこの世の讃たらしめよ
渡辺 茂子

三人の女の溜まる本棚の前にひろがる占いの本
渡邊 富紀子

ダンゴ坂その名に長く憧れて遂に行かざり行く事もなし
児玉 南海子

来年のお題は「和」なり願い込め平和な世界詠んでみんとす
篠原 和子

大川の浪が持ち上げ白い船ストンと落ちて頷き進む
清水 素子

もう一度山鳩鳴いたら帰らむか山の畑に里芋を掘る
友成 節子

千の風になりたる先輩短歌うたあまた病魔と闘い弱音を吐かず
富安 秀子

否応なしであったにしてもこの道を選んでの今日を重ねて新年
三上 眞知子

まつ黒な服を着てゐる研ナオコ話す言葉はうすい空色
高貝 次郎

この祖国守る手立てを言いなさい増税論はその後でいい
永田 賢之助

お下がりの姉のスカートの丈詰める亡母の手仕事我は継がざる
成田 ヱツ子

同じ時同じ所に来て止まる鴉に向けて手を振りてみる
広瀬 美智子

一人暮らしを寂しがりいし乙女子は目尻に蒼き光あそばす
青山 良子

初めての靴を脱ぎ捨て歩み来るひ孫の育ち吾が前にあり
谷脇 恵子

みかん二個林檎一個があればいい食後のデザート二人で分ける
南條 和子

もしぼくに最期の時がきたならば云ってください「怖がらないで」と
鎌田 国寿

よくやったと褒めてくれそうな君だから、君だからだよと追伸あげる
山内 可奈子

凍て風の吹きすさぶ夜の底にいてラジオの音量ひとつ上げたり
髙橋 律子

「ありがとう」 男孫まごより届く返信のことさら沁みる受験の前夜
仲野 京子

散る花をとこしへ留むる術あらばわが命だに惜しくあらねど
石谷 流花

背中にはりんりん一羽泣きうさぎずっしりいつも泣くのはわたし
森崎 理加

ドラマなれどサイレン響けば思わずに夜のテレビのボリューム下げる
山口 美加代

「あーんして」吾も口開けうながせば母はやうやうご飯を含む
岩本 ちずる

クリスマス日本の空は高く晴れ 嘘つき停戦火の手と悲鳴
上村 理恵子

薄氷の枯れ葉一枚閉じ込めて光返しつつ緩みゆきたり
奥井 満由美


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