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選歌 令和5年6月号

ささやかな違反ひとつで返します心で誓いハンドル握る
永田 賢之助
 
暗闇の祠の奥でほほえんで語り合いたし病めるバッカス
 宮本 照男

吾よりも勉強が好きだつた弟よ微分積分教はりしかな
渡辺 茂子
 
ふるさとのあおき山河よ老いぬれば帰る日叶わず夢に顕わる
青山 良子
 
新宿に反戦デモのありし頃寺山修司は健在だつた
臼井 良夫
 
淋しさは次の淋しさ呼ぶように通院帰りと友が立ち寄る
児玉 南海子
 
心音に耳を当てしは一度のみ十五年余りともに暮らして
高田 香澄
 
明日こそは母の貴女に会ひたくて羊水に乗り進む穴蔵
常川 緑
 
片手にて数へる程か生き残る老に切なく来る誕生日
広瀬 美智子
 
心なし我を見る眼の白々しコロナに三年雛の闇の中
成田 ヱツ子
 
諍いし過去の話を娘とすればそれぞれ己の真実を持つ
三上 眞知子
 
疎ましきことを捨てゆきここからは少しゆるんだ花筏にのる
森崎 理加
 
ほつほつほつ紫の花増やしてはローズマリーは空間探る
山口 美加代
 
「父親の醍醐味だね」と君笑う子のネクタイを結ぶ晴れの日
渡邊 富紀子
 
 カスガイにはもうならぬのか四人の子連れて家出る隣家のママは
小笠原 朝子
 
「アスタイイン」電報ならぬメールなり薄き空気の日々の切なし
橋本 俊明
 
息切れのひどさはコロナの後遺症自分で決めて除雪はしない
高貝 次郎
 
色褪するノートに眠る没の歌虎落笛ふく夜を寂しむ
友成 節子
 
恐るおそる振り向く過去は美しき化石のごとくあれば良けれど
高田 好

米寿とう齢ほっこりあたためて裏街道をほつほつ歩く
田中 春代

ぎこちなく化粧水はたく我が子の手  春が少女を色付けてゆく
山内 可奈子
 
初めての駅に降り立つ素のままの吾を包むごと春風の吹く
建部 智美
 
内申点、学習態度に忘れもの気にもかけない君はまぶしい
仲野 京子
 
散りそむる花こそいたうあはれなれまたと同じき春のなければ
石谷 流花
 
晴れやかにこころ弾ませやってきた  扉を開けて君を探した
鎌田 国寿
 
発売日まちきれず友とあらそいし週刊朝日わかき日の証明
才藤 榮子
 
気にくわぬ事有りしごと紫木蓮バサバサバサと花びら落とす
高橋 美香子
 
狛犬の口もわずかに緩んでる待ち侘びた花見仰ぐ人らも
髙間 照子


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