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選歌 令和5年7月号

生きてあれば負うかなしみや花あふるるこの街並は輝きたれど
渡辺 茂子

要人の服にはポケット多すぎて私欲の財を詰め込みおらむ
青山 良子

便利なる「ルンバ」なれども吸ひ取りしゴミの始末は私がします
岩本 ちずる

顔知らぬ父のことなど思ひつつ今年の花の咲く下に立つ
臼井 良夫

君のに涙が浮かぶものだから、ぼくは無敵の少年になる
鎌田 国寿

連れ立つて通院した日がなつかしいさよならあなたのお薬手帳
高田 香澄

両の手で水を掻きつつ進みをり暗い宇宙に私はひとり
常川 緑

トンガよりTSUNAMIがやって来るという朝に船の映像を見る
藤田 直樹

夕陽さえ春は優しく透き通り始まりの季を支えて眩し
三上 眞知子

いそいそと私のために支度してミントキャンディずるく忍ばす
森崎 理加

西へ西へむかふ列車にページ繰る来し方かなたに振り捨てゆかむ
山北 悦子

三月はさっささっさと去りゆきて見上げれば薄紅桜が笑う
山口 美加代

制服のままで居眠る中一に侍らう犬も丸まりおりぬ
渡邊 富紀子

十二桁これが私のマイナンバー重き数字よカード一枚
上村 理恵子

今生はこれが最後か桜花今に散らむとする花仰ぐ
広瀬 美智子

春くればドライブ行こう息子の誘い亡き母偲び故郷行こう
松下 睦子

親戚の孫誕生の吉報に日本晴れなる今日の大空
佐藤 愛子

大変に込み合つてゐる眼科での待合室の咳のしづらさ
高貝 次郎

春来てももどらぬトラクター惜しみつつ三本鍬での畑を耕す
田口 耕生

それぞれに思惟をば抱きそれぞれに粥を食みゆく禅寺の朝
宮本 照男

釣り合いはちょうどいいのに私たち全部足りない幼さが邪魔
山内 可奈子

春風は心もとなく崩れゆき今日の私を揺さぶっている
仲野 京子

足もとに音なく坐り毛づくろうわが猫のためシャベルをおきぬ
才藤 榮子

ホームから見わたす町なか桜色海のごとくに光あふれる
清水 素子

幼名の「ミー坊」と呼ばれし時もあり今や兄しか知らないことよ
高橋 美香子

毛の抜けた狸が庭を歩きいる何もできねば見ぬふりをする
玉尾 サツ子

スラスラと花の名答へしは既に過去答への出でぬ悔しさまとふ
成田 ヱツ子
 


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