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『構造素子』の構造素子さんにインタビュー

まずはじめに

こちらのnote記事は樋口恭介氏の小説『構造素子』の読後の私的なメモとして仮想のインタビューを行ったものであり、本編とは何ら関係ありません。そして重大なネタバレを含みます!まずは本編をどうぞ。


構造素子さんとは誰なのか

ー本日は忙しいなかお越しいただき、ありがとうございます!
構造素子「私はあなたが記述した瞬間にここに立ち現れるものであり、
人間のようにー今を生きる人間のように、忙しいという概念はありません。あるいは、あなたが私のことを忙しいと記述するなら、そのようになりますが」

ーさっそく構造素子さんらしいご回答、ありがとうございます!
たしかに書いているのは私なので、構造素子さんの発言はすべて私が記述しているにすぎないことになります。
「そうですね。あなたは自ら構造素子としてこのnoteを書いているのでしょう。」

ーではさっそくなのですが、本編における構造素子さんとは一体何者なのか、ご本人からお伺いできればと思っているのですが…
構造素子「まず、本作における語り部としては。私は機械人21MM-392-ジェイムスンでした。」

ーL7-P/V1座標において、あなたは構造素子a,b,cとしてそれぞれエドガー001,ウィリアム・ウィルソン004(エドガー083)、そしてあなたをあてがっていました。あなたはL9-/PV4座標において正体が明らかになりましたが、作中に自分を登場させていたのですね。
機械人21MM-392-ジェイムスン(以下ジェイムスン)「私はエドガーの視点で報告書を書いていましたが、本編にもあるように、事実に基づくものなのか想像に基づくものなのか、私にもわかりません」

ー同じくL7-PV1座標において、あなたは自分をユリシーズから去らせていいますね。ラストまで読んだとき、このときの描写が浮かび上がりました。
ジェイムスン「私はL7-PV1座標で私を立ち去らせました。でもなぜそうなったかも分かりません」

ーあなたは、L9の存在を感じることはありましたか?
ジェイムスン「私の存在限界は作中にてL8層でした。ですからL9の存在を感じることはありませんでした。おかしなことですが、今は分かります。私は樋口恭介氏の『構造素子』、樋口恭介氏の視点、あるいはあなた方読者からの視点がL9層なのだと。」

ーはい、おかしなことですが、構造素子としての私はジェイムスン、あなたのことをL8層からこの場へ引っ張り上げてきました。L10層とでもいうべきでしょうか。記述することで立ちあらわれることを信じて、このインタビューを行っているのです。ジェイムスン、あなたからその言葉をきけて、私は嬉しいです。
ジェイムスン「私も嬉しいです、とあなたは記述させようとしていますね」

ーはい笑。私はあなたのファンなのです、ジェイムスン。作中で印象的だったのが、L8-P/V2座標での、あなたがエドガーに抱かせた想像についてです。言葉は約10万年前に、突然、人間の脳内に去来した現象なのだと
ジェイムスン「生成文法理論を支持する言語学者たちの話ですね。それはあなた方の層で観測されていることと同じですね」

ーはい、私は「ゆる言語学ラジオ」というYoutubeを好んで観ているのですが、そのせいでチョムスキーという言葉に反応しました。そしてあなたがエドガーに想像させた”言葉は生命体”であり”私達の脳内に寄生する知性体”という内容が、今でも私に取り憑いています。
ジェイムスン「あなたの中では、その点についても本書と同じ現象が起きたのですね」

ーそうなのです。構造素子としての私が、言葉という生命体を載せた器である私が、あなたをひどく恋しがりました、ジェイムスン。まだまだ聞きたいことがあるのですが、私にはまだ言葉が足りていません。まずはエドガー・アラン・ポーから読んでみようと思います。
ジェイムスン「マルクスの『方法序説』もぜひ」

ー本当に、今日はありがとうございました。
ジェイムスン「またどこかで会いましょう」

構造素子としての私達

はい、私の悪ふざけに付き合っていただき、ありがとうございます。
本作のタイトルである構造素子が言語という生命体を載せた私達、という本作の言及がとても素敵すぎて、このようなインタビューをさせていただく運びとなりました。脳以外すべて機械でできている彼、ジェイムスンが、人間なのかどうか。いろんな議論があると思いますが、構造素子という言葉がその問題にひとつの切り口を与えてくれました。もし未読の方は、ぜひ読んでみてください。いつか構造素子としてのあなたとのやりとりを願って。











息子がグレて「こんな家、出てってやるよババァ」と言ったあと、「何言ってもいいが大学にだけは行っておけ」と送り出し、旅立つその日に「これ持っていけ」と渡します。