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年上部下に男性社員の育児参加を理解してもらう方法

「子どもの発熱を理由に会社を休むなんてありえない」とおもて立って発言する人は、ここ数年でかなり減りました。
しかし、長年家庭をかえりみずにモーレツに働いてきた世代の人たちは、頭ではわかっていても、根本部分では「とは言っても、給料もらってるんだから仕事の方が大事だろ」という感情がぬぐい切れず葛藤しているようです。
そういう世代の社員が、新しい概念を受け入れられるようにするために、マネジャーはどうかかわったらよいのか、について書いていきます。

育児のために休みを取ることに否定的な年下部下

介護施設に勤務する40代の施設長からの相談です。(一部改変)

私は、働く人には仕事もプライベートも同じくらい大切にしてもらいたい。家庭の都合で休まざるを得ないのはお互い様なのだから、そのときにがんばれる人ががんばって、助け合える職場にしたい。と常々社員に伝えており、みんなも理解して協力してくれています。

ある日、「子どもが発熱し、病院へ連れていくので休みたい」と、若手の男性介護リーダーから連絡があったそうです。私はその日は休みだったので、50代後半の事務長が電話を受けて、その後のシフト調整の手配までしてくれました。
事務長は電話口では「お大事にね」と優しい声を出していたものの、電話を切るなり「チっ。またかよ」と周りに聞こえる声で呟いたそうです。この話は事務所にいた別の職員から聞きました。

事務長は表向きには私の方針には同意してくれているものの、このような態度をとっているということが、しばしば私の耳に入ってきます。

事務長の言動により、みんなが遠慮して休みを取りにくくなってしまうのが心配です。どうしたらこの事務長の言動を止めることはできるでしょうか。

相手の中の善意を想像する

この問題を解決するには、事務長に対するマネジャー自身の”捉え方”を客観的に見つめなおすことから始めます。

「事務長は上司である私にいい顔をしているだけで、本当は納得していないのではないか」
「裏おもてのある性格で、上司の前ではよき理解者を演じているけど、私がいないところでは本性をだしているのではないか」
このように部下である事務長を疑ってしまう気持ちが湧いてしまうことがあります。

しかし、原因を「個人の性格にある」と結論づけた瞬間、思考停止となり、この問題は解決不可能になってしまいます。

結果的に、本当の原因が「個人の性格=他人が変えることのできない問題」である場合もありますが、まずは別の可能性から解決の道を探ります。
チームの目標達成のために、複雑な問題の解決をはかるのがマネジャーの役割なのですから。

そこで、この事務長に善意があることを前提として考えます。
たとえばこんなふうに。
「今の時代は、仕事と家庭の両立が必要だ、と事務長は頭では理解しているけれど、まだ十分に腹落ちしていないために言動が伴わない」

50代後半ともなれば、社会人歴は30年以上です。
男性も仕事と家庭を両立するという考え方が日本で浸透し始めたのは、ここ数年。会社によってはまだ受け入れられていない会社もあります。
30年かけて身につけた思考習慣は簡単には変えられません。
この事務長も、頭では分かったつもりになっていても、いざそういう場面に直面すると、気持ちと言動がついていかないのではないかと想像できます。

分からせるより、体感

この事務長は頭ではわかっている(つもり)なのですから、口頭による注意は逆効果です。
それよりも、「よき協力者である」とはどういうことかを身をもって体感してもらう方が効果的でしょう。

事務長が発した「チっ、またかよ」は望ましくない言動ですが、焦点を当てるのはここではありません。
事務長は、欠勤に対するシフト調整をしてくれました。
その点に着目します。

相談者の施設長に聞くと、「(事務長には)メールでお礼を伝えました」とのことでしたが、もっと効果的な方法があります。

それは、みんなの前で感謝の言葉を伝えることです。

欠勤連絡後にシフト調整したという行動は、施設長の掲げる「仕事もプライベートも大切にできる助け合う職場」を体現した行動です。

理念や目標を頭で理解していても、理念を自身の行動に置き換えて想像することができない人もいます。当然、何をしたらよいのか分からなければ行動をすることもできません。
だから、理念を体現した行動は、全体にとっても良い実例となります。
良い実例を全員に周知すると、みんなの理解が深まります

それに、事務長という役職についていても、上司に褒めれらて嫌な思いをする人はいません。
さらに、みんな前で「事務長は助け合う職場を体現する人」と承認されたら、事務長自身も「自分は社員のプライベートの充実にも理解がある」と思い込みます。
みんなの前での承認が、自己暗示を強化します。おそらく次に欠勤の連絡を受けるときには、もっと快く対応してくれるでしょう。

冒頭にいったとおり、30年以上かけて積み上げた習慣ですから、2,3回は態度が改まったとしても、また元に戻ってしまうかもしれません。
ずっと維持してもらうには、継続して承認することも必要です。やがて本物の習慣になることでしょう。

年上の部下に対しての承認が苦手というマネジャーもいますが、承認という言葉が苦手なら、感謝と言い換えて問題ありません。「ありがとうございます。助かりました」と。

マネジャーは、メンバーの目標達成に向けた行動に対しては、恥ずかしがらず、みんなの前で承認と感謝を伝えましょう。


めでたしめでたし

立崎直樹


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