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夫がパパ友を作った事に劣等感を感じた話

保育園のお迎えから帰宅した夫が
「これ見て」と夕食の支度中の私に携帯の画面を見せてきた。
そこには、私が知らない人のLINEアイコンがあった。さらに夫はウキウキしながら、
「誰だと思う?」と聞いてきた。
「アイコン名がニックネームだしさ、判らないよ」と私が気のない返事をすると、彼は嬉々として言った。
「ほら、この前言ったじゃん。T君のお父さんに"LINE交換しましょうか"って言われたって。」

そうだった。そうだった。思い出した。
T君は息子と同じクラスの子だ。お父さんがお迎えに来る事も多く、我が家のお迎え担当の夫と顔を合わせる機会が多い。
ウチもT君も延長保育常連組で、気が合う子供達は結構な頻度で一緒に帰る。そして、T君にはもうすぐ弟か妹が産まれる。だから最近は、お父さんが一人でT君の送迎を担当している。我が家も、数日前から体調不良の私に変わり、夫が送迎を引き受けてくれていた。送迎担当同士、顔を合わせる機会が増えたのだ。

夫は話し続けた。
「交換しようと思ったんだけど、電車がギリギリだったからさ、"また今度で"って言っちゃったんだ。」
それを聞いて私は、
「うわぁ。"また今度"って、断る常套句っぽいよ。」とからかうと、
「そう、そうなんだよ。だから後悔してたんだ。」
「でさ、今朝、駅に行く途中に公園でT君とお父さんを見つけて、声をかけたんだ。」
私は彼の行動にいたく関心した。彼は「また今度」と言った後、ちゃんと自分から声をかけてLINE交換したのだ。

私は
「良かったねぇ」とだけ答えた。

私は多分、いや、絶対に彼と同じ事はできないだろう。夫は当たり前の事をしただけのはずなのに。私なら、自ら「また今度」と言ってしまったら、(悪いことしたな、嫌な気持ちにさせたな)と、どんどん気まずくなり、自分から声をかけるのをためらうだろう。そして、そのままズルズルと、相手が「交換しましょう」と再び言ってくれるのを待つに違いない。
そういう思考回路だから、私は未だ保育園の誰ともLINE交換をした事がない。

夫は、私ができない事を"さらり"とやってのけた。私は夫への尊敬と同時に、ジワジワと黒い感情を感じた。

きっと、その誠実な態度で、夫はこれからも少しずつパパ友を増やしていくのだろう。パパ友どころかママ友ができるのも時間の問題だ。

自分の世界を自らの手で広げている夫を横目に、私はある種の諦めを感じながら確信した。
多分これからも、私は小さな世界に篭ったままだ。夫と私は正反対だから上手くやっているんだ。そう自分に言い聞かせた。小さな劣等感を抱えながら。




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