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己を守れ、バカになれ。その弐

毎年その人の住まいの庭は季節ごとの顔を見せる。
印象にあるのはくちなしやキンモクセイの香り、たわわなるみかん。
植え込みはたぶん職人が入っているのだろう、よく手入れされていて最初の2年はほとんど荒れている印象はなかった。

そのうち独居となってから相談支援室の依頼で週に一度洗濯とトイレと風呂の掃除を任された。
しかし庭の方は手配する人もなくみるみるうちにまとまりを欠いていった。
花壇には雑草があふれ、見たこともない大きくてカラフルな蜘蛛が巣をはり私を出迎えた。
乱れた芝生、枯れ葉の吹きだまり。
みのりの時を迎えたみかんは誰に収穫されることもなく鳥たちの胃袋を満たし、あるいは地に落ち還っていく。

そんな荒みゆく風景ではあったが、当の本人は週一の訪問に対し拒むことなく必ず鍵を開けていてくれていた。
それは自由に玄関に入り仕事をはじめてよいという合図であり、生存確認のひとつでもあった。
まず声を聞くことが目的。
あいさつには必ず声が返ってくるのでそれでよいと思っていた。月一度の通院は規則正しく玄関のそとで待っていてくれ、
また、集金のときは顔を見せて支払いをしてくれる。
だから、それでよい、と、思っていた。
時おり台所で食事を摂っている。
薬局や食料の配達にくる業者がいて支払いのやりとりがある。
ああ、なんとか元気で暮らしているんだな。
もう少ししたら体調についてすこし深く聞いてみよう。
そんなことを考えながら支援を続けていた。


そんなのんきなことを、考えながら。



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